注目の記事 PICK UP!

あわてんぼう

あわてんぼう

ジリリリリリリ!

けたたましいベルの音に飛び起きた彼は、まだ半分しか開いていない目で、特製時計の文字盤を見た。

彼が持っている1年時計の金色の針は、赤いしるしを指していて、今日が特別な日であることを知らせている。

「もう当日か、早いなあ……」

大きな体をベッドから押し出しながら、小さなあくびをひとつして、自慢の髭をつるりと撫でた。

彼が自分で仕事をするのは1年に一度だけ。
けれどそれはとても重要な仕事で、なおかつかなりの重労働。
そして、なにより、彼だけにしか出来ない仕事だ。

大勢の部下たちが半年がかりで準備した資料に目を通し、
今夜の仕事の段取りをして、最後の準備を整えるうち、あっという間に夜が来た。

今夜は特に冷えるようだ。

彼はたっぷりとファーのついた赤いカシミヤのコートを羽織ると、
特製の乗り物に乗って、夜の街へと出て行った。

シャンシャンシャン……

彼の乗り物が奏でる美しい音が遠ざかるのに気づいた部下が、
慌てて彼を呼び止めようと、大きな声で叫んでいた。

「社長、お待ちください!この時計、1ヶ月ほど進んでいます!
まだ12月になっていません!社長!社長……」


このショートストーリーは、大阪の時計店【ウオッチコレ】メールマガジン『ブリリアントタイム』に掲載されています。

関連記事

  1. ショートストーリー コレクター

    コレクター

  2. ショートストーリー『春近し』

    春近し

  3. 大嫌いなもの

    大嫌いなもの

  4. ショートストーリー ターコイズブルー

    ターコイズブルー

  5. ショートストーリー 怖い話

    怖い話

  6. 春の宝石

  7. ショートストーリー「音」

  8. ショートストーリー 黒真珠

    黒真珠

  9. ショートストーリー  覚えている女

    覚えている女

コメント

  1. この記事へのコメントはありません。

  1. この記事へのトラックバックはありません。

PAGE TOP