奈々子

「週末は嫌いよ」

拗ねた口調でそう呟く奈々子の横顔を見ながら、
どんな表情も可愛いなと、また愛しくなる。

40も後半にさしかかったオヤジに、
どうして奈々子のような子が惚れたのかは分からない。

ただ、奈々子は私に妻子がいることを承知した上で、
それでも付き合いたいと言い、
迷惑は絶対にかけないから、好きでいさせて欲しいと懇願した。

奈々子くらいの美人であれば、同じ年頃の男たちでも
よりどりみどりのはずだというのに。

事実、職場でも密かに奈々子を狙っている男を、
私は何人も知っている。

奈々子が私の女だとも知らずに……。

若くて美人な上に分別がある女に、
あなたなしじゃ生きていけないとまで言われると、
男としても自信が湧くのは当然のこと。

諦めかけていた出世の道も,また開けたりするから面白い。

私は奈々子と付き合い始めてから、2階級昇進して
部長と呼ばれる立場になった。

給料も上がって、生活にゆとりが出てくると、
妻にも優しい言葉をかけてやれるようになる。

ここのところずっと機嫌の良い妻は、以前より若返ったように感じる。

その上、学生時代にやっていた趣味の陶芸を再開したとかで、
自作の器に凝った料理を盛り付けて出すようになった。

これがまた旨くて、晩酌のビールが楽しみになる。

こうなると、自宅にも早く帰りたくなるが、
もちろん、奈々子と過ごす時間も確保したいわけで、
定時を過ぎたらもう1分たりとも会社に居たくないと思う。

私は仕事を早く終わらせられるよう、努力と工夫を重ね、
これが功を奏して業績はさらに上がり、社長の覚えも良くなった。

なんて充実した人生なんだろう。

仕事と家庭と恋愛、全てに満足できるなんて……。

妻の上手いつまみでビールを飲みながら、
私はしみじみと思った。

******

「奈々子さん、お世話になりました。」

女は、約束の報酬を支払いながら、奈々子に礼を述べた。

「主人ったらすっかり人が変わって、私にも子供にも優しくなったのよ。

先日なんて、ほら、これを……。」

女は、嬉しそうに、夫が買ってくれたという指輪を見せた。

「お役に立てて光栄です。」

奈々子は頭を下げて女から札束を受け取った。

「それにしても、最近はいろんな仕事があるのねぇ。
最初に聞いたときはそんな馬鹿な話と思ったけれど……
こんなに上手くいくなんて、お願いしてみて良かったわ」

女は本当に満足そうだった。

奈々子にはまだ、この女の夫に別れを切り出すという仕事が残っているが、
いつものようにやれば問題もないだろう。

奈々子は、報酬がよくて、自分にしかできない
この特別な仕事をとても気に入っている。

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