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才能

ショートストーリー 才能

作詞家は、頭を抱えて悩んでいた。

どうしても書けないのだ。
サビを盛り上げるフレーズが、最初のひと言さえ思い浮かばない。

これまでにだってスランプはあったが、
しばらくすれば抜けられて、
また元通り、頭の中に言葉があふれだした。

そんな言葉を繋ぎ合わせて、何百曲もの歌詞を書き続けてきたのだ。

ところが、今度は何かが違う。

かれこれもう半月だ。

こんなにも長い間、何一つ言葉が思い浮かばないなんて、
どう考えてもおかしい。

作詞家が頭を抱えていると、誰かがポンと肩を叩いた。

振り返ると、そこには、見知らぬ男が立っていた。
色の白いすらりとした男で、思わず見惚れるほど綺麗な顔をしている。

「誰?!」

綺麗な顔の男はその質問に答えず、逆に作詞家に質問した。

「詞が書けなくて困ってるんでしょ?」

「うるさいわね!少し迷っているだけよっ」

「隠さなくてもいいよ、僕はみんな分かってるんだから。
あなた、僕の顔がとても綺麗に見えるでしょ?
それはね、あなたの作詞の才能が優れているせいなんだ。
普通の人が僕を見たら、平凡な顔に見えるはずだよ」

「な、何をわけの分からないことを……」

作詞家はそう言いながら、まんざらでもなさそうだった。

「でもさ、もうそろそろ使い果たしかけて、
あんまり残ってないんだよね、あなたの、その才能。
ずいぶん急いで使ったよねぇ、もう少しゆっくり使えば良かったのに」

確かに作詞家は、短いスパンで次から次へとヒット曲を生み出してきた。

年間ヒット曲の1位から5位まで全てが、
作詞家の書いた曲だった年もあった。

「才能ってさ、質は人によって違うんだけど、量は誰でも同じなんだ。
つまり、いくら優れた才能を持っていても、使い切ったら終わりなんだ。
空になったジュースの瓶みたいに、何も出てこなくなるんだよ」

作詞家は青ざめた。

しかし、何とか心を奮い立たせて、綺麗な男にこう言った。

「才能の量が決まってるなんて嘘よ!世の中には多作な作家や
死ぬまで名曲を書き続ける作曲家だっているじゃない!」

「そうそう、そういうアーティストもいるよね。
彼らは皆、特別な契約をしてるんだよ。
実は、僕、その契約の件であなたと話すためにここに来たんだ」

綺麗な男は、「実は」から少し小声になって言った。

男によれば、他の大切な能力や寿命と交換することで、
才能の量を増やすことができるという。

作詞家は、名作をたくさん残して早死にした小説家や
正気を失いながらも評価される作品を描き続けた画家や、
失明してなお、喝采を浴び続けた歌手のことを思い出した。

「まさか……」

「別に信じてくれなくてもいいけど、あなたの才能の質は特別たから、
一応知らせてあげようと思ったんだ。
もし、僕と契約したくなったら、いつでも呼んでよ」

男はゾクリとするほど魅力的な顔でウインクをよこした。

「ああ、それと……あなたの才能、まだ空っぽってわけじゃないから、
少しでも残っているうちなら、増やす方法もあることはあるんだ。
その方法は……」

「その方法は?」

作詞家は固唾をのんで男の次の言葉を待った。

「その方法は……僕からは教えられないんだ。
でも、あなたなら、きっと見つけられるから!
だって、僕…… あなたの歌詞のファンなんだ」

綺麗な顔を赤らめて、最後に小声で付け加えると
男は作詞家の前から姿を消した。

次の日も、作詞家は頭を抱えて悩んでいた。

だが、その悩みは、昨日までとは大きく違っていた。

作詞家の頭の中には、人の心を打つ美しい言葉が、
次から次へと溢れ出していた。

にもかかわらず、悩み続けていたのは、作詞家の頭に、
こんな疑問が浮かんでいたから。

溢れだす言葉たちを、これまでのように簡単に
紡いでしまって良いものかしら?

作詞家は、頭の中にあふれる言葉を、
それまでよりもずっとずっと、大切に感じていた。


このショートストーリーは、大阪の時計店【ウオッチコレ】メールマガジン『ブリリアントタイム』に掲載されています。

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