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朝の30分

ショートストーリー 朝の30分

目ざまし時計が壊れていた。

結婚してから8年ずっと使っていた……

いえ、正確には、
6年4か月の結婚生活の後、1年6か月の別居を経て
ようやく離婚が成立して1か月と2週間経つ今日まで
ずっと使っていた時計。

それが壊れたようだった。

鳴らないのではなくて、早く鳴ったのだ。30分も。

以前から少しずつ進みやすくなっていた時計だったけれど、
一晩で30分も進むようになっては、もはや時計として役に立たない。

朝の30分には昼間の3倍の価値がある。

とは言っても、すでに目は覚めてしまったし、
30分は、もう一度眠り直すには短すぎる。

私は仕方無くベッドから抜け出した。

まだ届いていないかな?と思いながらも、新聞受けを覗きに出ると、
ちょうど新聞屋さんがやってきたところ。

配達員は意外にもイマドキの若い女の子で、
夜に同じ時間だけアルバイトすれば、
新聞配達の5倍は稼げそうなほどかわいい顔をしていた。

目が合ってしまったので、「おはよう、ごくろうさま」と声をかけると、

「おはよございます!ありがとうございます!」

と明るい声がかえってきた。

なんだかとても気分が良くて、鼻歌まじりに引き返している自分に驚いた。

食卓で新聞を広げながら、いつもよりゆっくり朝食をとる。

いつものヨーグルトのふたをめくると、裏側に、「あたり」の文字が。

ヨーグルトの容器には、「モウモウちゃんストラッププレゼント!」
というキャンペーンの説明が書かれていた。

別に牛のストラップがほしいわけではないけれど、
朝から「あたり」は悪くない。

クローゼットの前で新しいコーディネートを発見し、
普段より丁寧にメイクをしても、まだ、15分早くて、
いつもより2本早い電車に乗れた。

いつもの電車とは違う顔ぶれが新鮮で、
まだラッシュのピークには少し早い車内を見まわしていると、

あっ……。

「おっ!」

彼も私に気づいたようだ。

ドキドキしている私に笑顔を見せて、
こっちへおいでと手まねきをしている。

まさか、こんなところで彼に会えるなんて。

しかも、彼の隣に座って通勤できるなんて!

朝の30分は昼間の3倍の価値がある。

いえ、その価値は3倍どころじゃ済まないかもしれない。


このショートストーリーは、大阪の時計店【ウオッチコレ】メールマガジン『ブリリアントタイム』に掲載されています。

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