2680日後

「ごめんなさい、少し失礼していいかしら?」

菜月はそう言うと、細い指先で携帯を操作した。

「最近の携帯は本当に多機能だね……」

「そうね、スマートフォンはポケットに入るオフィスよ」

最新型の携帯を使いこなす菜月の若さに、

軽い嫉妬を感じた。

同期入社で、退社した年も偶然同じ、
選んだ結婚相手だって似たようなものだった。

なのに……

どこでこんなに差がついてしまったのだろう?

しばらくの間、ごく普通の主婦だった菜月は、

子供が幼稚園に入ると勉強を始め、短期間で複数の資格を取ったらしい。

ハーブティーアドバイザー
アロマテラピスト
カラーコーディネーター
心理カウンセラー

名刺に並ぶいくつもの肩書きの中で、

「代表取締役社長」の文字が、ひときわ眩しく光っていた。

「起業って言ってもね、今は敷居が低いから、誰にでも出来るの。
こういう分野は、女性にとって有利なことも多くあるし」

そう言って微笑む菜月は、OL時代よりも魅力的なほどで……

「ね、菜月……」

書類をめくる彼女の、綺麗にネールカラーした指先を見ながら、
つい、あの頃のように、彼女を名前で呼んでしまった。

「鷹田さん、ごめんなさい。

これは一応、面接なの。

私のことは名前じゃなくて苗字の方で呼んでくださる?」

「ご、ごめん」

本当に、どこでこんなに差がついてしまったのだろう?

転職先が先月潰れ、今、こうして面接を受けている会社の社長が、
かつての職場の恋人だなんて……。

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