彼は深いため息をついた。

この私に楯突く輩がこれほどまでに増えていたとは……

カーテンの端に指をひっかけ少しだけ外を覗くと、プラカードを持ったいまい ましい行列はさらに人数を増していた。

受話器を取り上げ電話をつなぐ。

向こう側から聞こえる恐縮しきった声は、さ らに彼のイライラを募らせる。

……ったく、こんなことになるまで放って置いたのはいったい誰なんだ!

持って行き場のないいらだちを押さえきれず、怒りに燃えた目で呟いた。

「俺はやるといったらやるんだ。」

カチッ。

その時、小さな音が聞こえた気がした。

彼は反射的に時計を見たが、なんら変わったところはない。

あいつらだって、ついこの間までは俺にもみ手をしながら、
「私たちも賛成ですよ」
なんて言っていたじゃないか。

それなのに、いざとなると、あんなことを言い出しやがって……

でも、待てよ。

これは俺にとってもいい時間稼ぎになるかもしれない。

こうやって揉めている間に十分な準備をして事に臨めば、より良い結果にな るに違いない。

私の計画が遂行されれば、我が国の経済は潤い、

私はさらに力を強めることに なるだろう。

「ふふふふふ。はははははは。」

カチッ。

その時、またはっきりとした音が響いたが、独り高笑いする彼にはもう聞こえていなかった。

その音が、地球滅亡までの時間を計る時計の針が進む音だと、彼が気付く日は 来るのだろうか……。


このショートストーリーは、大阪の時計店【ウオッチコレ】メールマガジン『ブリリアントタイム』に掲載されています。