西暦2025年、私たちチームはついに、時間を遡る方法を確立した。

実は、2015年にはすでに、その原理を解明し、秘密裏に、
特定の空間で、複数の人間が過去に戻る実験を行っていた。

しかし、どれほど慎重に実験を行っても、一人の人間が時間を移動し、
移動した先で、最初とは別の選択をすることで生まれる歪みは、
現在の空間に意外な現象として現れ、時には全く関係のない人間に
影響を及ぼすこともあった。

実験チームはそれらを、ありふれた事件や事故に見えるよう工作して処理し、
この重大なプロジェクトが世間に漏れないよう注意を払った。

時には、事件や事故では済まされないほど大勢の人を巻き込んでしまうこと
もあったが、そんな時には、自然災害の名を借りて処理した。

思い返してみれば、あれは少しおかしいと思えるニュースに、
心当たる方もいるのではないだろうか。

とはいえ、それももう過ぎたこと。

そうした犠牲もあったが、そのおかげてチームは今、時間を自由に遡り、
過去に戻ることができる方法を、誰にでも使えるかたちで確立したのだ。

この方法を公表すれば、誰でも過去の好きな時点にもどって、
人生をやり直すことができるようになる。

例えば、極悪犯罪の犯人を、まだ純真な少年時代に戻して、
そこから全く違った人生を歩かせることだって可能だ。

誰でも、今後悔していることを、後悔する前の時点にまで戻って、
改めてやり直すことができるのだから、「後悔」は、もうこの世の中から
消えてなくなるだろう。

世界はきっと、希望にあふれ、未来は誰にとってもバラ色になるに違いない。

長い年月を費やした偉業の完成に胸躍らせ、私たちプロジェクトチームは、
その方法を世間に発表した。

ところが……

その後もこの世の中から「後悔」は消えていない。

なぜなら、何度過去に戻っても、行いを改めることができない人が
ほとんどだったからだ。

もちろん、ごく一部の人間は、後悔などない希望にあふれた生活を
送っているが、そんな人間はもともと過去の反省を活かして現在を生きて
いたから、わざわざ過去に戻る必要はないとすぐに気付いた。

予想外だったのは、何度も過去に戻っては行動を変えないまま今に至り、
後悔してまた過去に戻ることを繰り返す若者が増えてしまったことだ。

時のリフレインを繰り返す彼らは社会問現象として問題視され、
その矛先は、今、方法を発表した私たちチームに向けられようとしている。

私たちは過去に戻って、方法論を発表しない道を選ぶべきなのだろうか?
チームは今、その論議の真っ最中である。


このショートストーリーは、大阪の時計店【ウオッチコレ】メールマガジン『ブリリアントタイム』に掲載されています。