「……でさ、何度繰り返しても、その時点までくるとまた過去に戻っちゃうんだよ」

小説を読んで感動したという友人が、興奮した口調で教えてくれる。

仕事の待ち時間に、友人がたまたま手にした小説は、ある男が何通りもの人生を送るというSF作品で、いたく面白かったらしい。

「ほら、“人生は一度きり”だとか言うだろう?
でもさ、あんなふうに何度も繰り返して、いろんな人生を送れたら面白いよね。」

友人は夢見るような表情で続ける。

僕はそんな友人の横顔を見ながら、彼はつくづくこの仕事に向いてるなあと思う。

「じゃ、この後、渋谷だから、そろそろ行くよ。本、お前も読んでみろよな!」

最近メキメキ売れ出してきた俳優の彼は、天才医師役の収録を終えて、今度は逃亡中の窃盗犯の役をするべく
足早に去っていった。

 

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