カタカタ……カタカタカタカタ……

「あなた、その癖止めてちょうだい!気になって仕方ないわ」

「ごめん……」

夫は考え事に熱中すると貧乏揺すりをする癖がある。

けれど、こうなってもまだ、その癖が直らないというのは不思議だ。

「ねえ、聡子、ちょっと散歩にでも行かないかい?」

「今はダメよ、まだしなくちゃいけないことがたくさんあるの」

「そうか」

夫はがっかりした声で小さくため息をついた。

時々、あの時の選択は本当に正しかったのかどうかが分からなくなることがある。

最愛の夫が事故に遭って生死の境をさまよっていたあの日……。

医師から夫の命を助けるための最新医療を施すかどうかの選択を迫られた時、

私は、まだほんの半年前に聞いたばかりのプロポーズの言葉を思い出していた。

「君無しでは生きていけない」

そう言って情熱的に抱きしめてくれた夫を失うことなんてできるわけないと、

当時まだ始まったばかりの最新手術を受けることに同意した。

その結果、夫は大きく損傷した身体を捨て、脳機能だけの小さなチップとなって、

私が一番大切にしていたこの時計に埋め込まれたのだ。

カタカタ……カタカタカタ……

テーブルの上に置いた時計が小刻みに震え、小さな音をたてている。

身体の無い人生に許されるのは考えることだけなのだから、

許してあげたいと思うのに、どうしてこの小さな音がこんなにも気になるのだろう?

もう一度、止めてと言おうとしてふとあの言葉を思い出した。

――君無しでは生きていけない――

今、夫は本当に……。

私の視線に気付いたのか、震えるのを止めた夫を手首にはめて、

私は明るい声で言った。

「お天気も良いし、お散歩にでも行きましょう!」