「ごめんなさい、少し失礼していいかしら?」

菜月はそう言うと、細い指先で携帯を操作した。

「最近の携帯は本当に多機能だね……」

「そうね、スマートフォンはポケットに入るオフィスよ」

最新型の携帯を使いこなす菜月の若さに、

軽い嫉妬を感じた。

同期入社で、退社した年も偶然同じ、
選んだ結婚相手だって似たようなものだった。

なのに……

どこでこんなに差がついてしまったのだろう?

しばらくの間、ごく普通の主婦だった菜月は、

子供が幼稚園に入ると勉強を始め、短期間で複数の資格を取ったらしい。

ハーブティーアドバイザー
アロマテラピスト
カラーコーディネーター
心理カウンセラー

名刺に並ぶいくつもの肩書きの中で、

「代表取締役社長」の文字が、ひときわ眩しく光っていた。

「起業って言ってもね、今は敷居が低いから、誰にでも出来るの。
こういう分野は、女性にとって有利なことも多くあるし」

そう言って微笑む菜月は、OL時代よりも魅力的なほどで……

「ね、菜月……」

書類をめくる彼女の、綺麗にネールカラーした指先を見ながら、
つい、あの頃のように、彼女を名前で呼んでしまった。

「鷹田さん、ごめんなさい。

これは一応、面接なの。

私のことは名前じゃなくて苗字の方で呼んでくださる?」

「ご、ごめん」

本当に、どこでこんなに差がついてしまったのだろう?

転職先が先月潰れ、今、こうして面接を受けている会社の社長が、
かつての職場の恋人だなんて……。