あともう少しで仕事も終わりだ。

僕はいつもの手順通り、ぐったりとしたターゲットの傍にしゃがみこんで、爪を剥がしにかかった。

すると、その時、ターゲットの口を塞いだはずの消音マスクがなぜかはずれて、突然大きな声が響いた。

「うぎゃああああああ!このケダモノ!!!」

僕はとても驚いて、尻もちをついてしまったけれど、もう一度マスクをつけると、気を取り直して仕事をやり終えた。

剥がした爪と、くりぬいた目を瓶に入れ、屋敷に戻ってママに渡すと、
ママはいつものように優しく僕を抱きしめて、あの綺麗な石がついたネックレスを、僕の首にかけてくれた。

僕は、ママの胸で揺れているその綺麗な石を見ながら、頭を撫でてもらうのが好きだった。
石をじっと見詰めていると、なんだか不思議な気分になって、それからとても気持ち良くなった。
僕はママに、今日の仕事の失敗は言わずに、ターゲットが発した“ケダモノ”という言葉の意味を聞いてみた。

ママは優しい眼差しのまま、「“ケダモノ”というのはターゲットのことよ」と教えてくれた。

僕が暮らす広いお屋敷には、僕の他にも何人かの子供たちが暮らしていて、ママは僕だけのママじゃない。
僕の世話はお手伝いさんがしてくれて、食事はシェフが作ってくれる。
しなくちゃいけない勉強や訓練は、それぞれを別々の先生に完全にマスターするまで何度も教え込まれる。

勉強や訓練は厳しいけれど、お屋敷にいる人は皆とても優しいし、何よりもママがいるから、僕はここが好きだった。

僕が初めて仕事をしたのは、11歳の夏のこと。

何百回も練習した通りの手順でターゲットに近づき、部屋に入れてもらって、薬を注射し、消音マスクをはめて、
ターゲットの顔が赤くなったり青くなったりするのを見ながら、練習通りの処置を施した後、
クライアントに渡すための爪と目を取って瓶に入れた。

手や足についたどろどろやねとねとををふき取って、新しい服に着替えると、外で待っていた迎えの車に乗ってお屋敷に帰った。

小さい頃からずっと教えられてきた勉強と、動物を相手にした訓練のおかげで難しくはなかったけれど、
人間の顔は動物よりもよく動くし、匂いや肉の感触も、動物のそれとは違っていたので、なんだか少しやり辛かった。

ママに仕事の報告をすると、ママは自分の胸元から綺麗な石のネックレスをはずして、それを僕にかけてくれた。

そして執事が持ってきた新しいネックレスを自分の首にかけた。

ママの胸と僕の胸には同じ綺麗な石が揺れていた。

僕はそれがまた欲しくて、次の仕事をするのが楽しみになった。

3ヶ月後には二度目の仕事をして、それから2ヶ月後の今日、3度目をした。

僕の胸には3つの石が揺れていたけれど、今日は“ケダモノ”という言葉が僕を悩ませていた。

ターゲットの解体が僕らの仕事で、そのターゲットは“ケダモノ”で……

でも、もし僕も“ケダモノ”だというのなら、そのうち僕だった解体される側になるのかもしれない。
そんなふうに考えたとたん、僕は怖くてたまらなくなり、ママに貰った綺麗な石をぎゅっと握ってベッドの中にもぐりこんだ。

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ここ1年間で、すでに10件も発生している同じ手口の殺人事件は、
被害者が皆、かつて残虐な犯罪を犯した未成年の加害者だというのが特徴だった。

近所では、鑑別所を出処した少年達を怖がっていた人々も多く、
奇怪で残酷な事件であるにもかかわらず、被害者に同情する声は少なかった。

爪と片目の無い死体には特殊な器具を使ってつけられたと思われる無数の傷が残っていたが、
犯人はなかなか特定できず、捜査は一向に進展しなかった。

ところが、11人目の被害者が出た時、とんでもない容疑者が浮かび上がった。

それは、ダイヤのネックレスをいくつもかけた、まだわずか12歳の、美しい顔をした少年だった。

対応した捜査員は、犯行を全面的に認めながらも悪びれる様子もなく、
「おじさん、僕は“ケダモノ”なの?」と問いかける少年に困惑しているという。

天使のような微笑を浮かべる美しいこの少年が、本当にあんな殺人を犯せるのだろうか?

少年は精神を病んでいるものと見られ、専門家の鑑定にかけられることが決定している。

 

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