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  1. ショートストーリー

会いたい

※このショートストーリーは、単独でもお楽しみいただけますが、
先に『遠恋』から読まれると、よりお楽しみいただけます。

「また残業してるのか?」

部長の声にハッとして時計を見ると、10時を少し回っていた。

いつの間にこんな時間に……

「お前、最近少し痩せたんじゃないか?忙しいのはわかるけど、あんまり無理するなよ」

そう言って、コンビニのおにぎりを手渡された。

そういえば、今日は昼から何も食べてない。

部長が、「お先に」と片手を上げて出て行くと、オフィスにいるのは俺だけになった。

ここの所ずっと、こんなふうに残業をしている。

仕事に没頭でもしていた方が、気持ちが楽になるからだ。

それに、こうしてひとりきりになれば、結子が会いにきてくれるような気がする。

昨日もまた、結子の夢を見た。

夢の中の結子は、嬉しそうにも哀しそうにも見える表情で、
「忙しいのに来ちゃってごめんね」と言う。

抱きしめようと手を伸ばすけれど届かなくて、何度も大声で名前を呼ぶ。

結子!結子!結子!!

呼んでいるのに離れていくばかりで、どんなに走っても追いつけない。

途方に暮れた俺は声を限りに名前を叫び、自分の声で目が覚めた。

遠恋していた結子との結婚を決意したのは、昇進が決まった4月のことで、
7月の結子のバースデイにプロポーズするつもりだった。

少しでも良い指輪を買ってやりたくて、
毎週末会いに行っていたのを月に1度に減らして貯金した。

結子には仕事が忙しいせいだと伝えていたが、
6月最後の週末に届いた「どうしても会いたくて」という
LINEのメッセージには、最終便のチケットが写っていた。

まさか、その飛行機が……。

結子…… 結子に会いたいよ!

夢の中なんかじゃなくて、本物の結子に。

もう一度会って抱きしめられるのなら、幽霊だってかまわない。

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