ほら、また笑った。

彼は、私の顔を見ると、まず最初に必ず笑う。

声は立てずに、でもとても面白そうに。

いえ、むしろ、声が漏れてしまうのを我慢でもしているかのように
本当に楽しそうに笑う。

それはほんの一瞬で、よそ見でもしていれば見逃してしまうくらいの
ごく短い時間だけれど、どんなに真面目な話をする前でも、
必ず、そうして笑うのだ。

人の顔を見て笑うんだから、ものすごく失礼な奴だと思う。

なぜ笑うのか問いただしてやりたいとも思ったが、
その笑顔があまりに無邪気で、幸せそうにさえ見えたから、
なかなかそうすることができなかった。

そう、何十年もの間、ずっと。

そして、今だって……

ベッドに駆け寄った私を見たとたん、彼はやっぱりあの顔で笑った。

そして真顔に戻ったかと思うと、すぐ静かに逝ってしまった。

穏やかに目を閉じて、もう笑うことのない彼の顔を覗き込んだとき、
何十年も訊ねたかった問いの答えがふっとわかった気がした。

彼が、とても面白そうに笑うあの顔が、はっきりと思い出されたから。

これからは、一人きりで生きていかなくてはいけないけれど、
目を閉じればいつでも、私を見て楽しそうに笑う彼に会うことができる。

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