里奈子は身体を右側に向けて隆をじっと見詰めながら、
その美しい白い手を、テーブルに置いた隆の右手にそっと重ねた。

ねっとりとしたジャズのメロディが、
今夜二人が過ごすかもしれない濃密な時間を想像させる。

けれど……

ミニスカートから伸びた里奈子の細い足は、

暗い店のテーブルの下で左側にいる敬一の足に絡められていた。

里奈子は、スリルが好きだったのだ。

敬一は少しだけ体を右側に向けて、

テーブルの下にあるの左手で、里奈子の脚をなぞっている。

正確な時計の針のように、上へ上へと少しずつ進んで、
今や、膝から腿へと差しかかろうとしていた。

里奈子は、隆から目を逸らさない。

隆の瞳も、里奈子だけをじっと見詰めていいる。

ただ……

隆のしなやかな左手は、里奈子の背中の後で、
敬一のたくましい右腕をまさぐっていた。

隆は、里奈子も、スリルも、そして、“男”も好きだったのだ。


このショートストーリーは、大阪の時計店【ウオッチコレ】メールマガジン『ブリリアントタイム』に掲載されています。