出会ってから3ヶ月。

好きでたまらない私の彼は、左手にアンティークのオメガを着けている。

映画の時間を確認する時、
仕事の電話がかっかってきた時、
次の約束を決める時、
彼がオメガに向ける視線が、なぜか愛しげなものに感じられる。

恋する女は想像力が逞しいから、
何度もオメガに視線を向ける彼を見ているうちに、
彼の視線がオメガの文字盤を通り越して、
どこかもっと別のところに向けられているような気さえしてくる。

あのオメガには何か特別な思い出があるのかもしれない、と。

左手のオメガの向こうにいる、他の“誰か”を妄想してしまう。

もしも、できることならば、オメガの中に入って行って、
その“誰か”に文句を言いたい。

「早くそこから出て行ってよ」って。

彼がこんなに魅力的なのは、
私の知らないたくさんの過去があるからだと、
頭では解っているけれど……。

ほら、またそんなふうにオメガを見るから強い嫉妬を感じてしまう。

終電を気にする彼に、今日は帰らなくて良いのだと告げ、
オメガを見るのを止めた彼の熱い視線を独り占めしながら、
その左手をちらりと見やって、小さな声でつぶやいた。

「私の勝ちよ」


このショートストーリーは、大阪の時計店【ウオッチコレ】メールマガジン『ブリリアントタイム』に掲載されています。