「パンパカパーン!新しい一週間がはじまりまーす!」

「ねえ、あなた、起きて!爽やかな朝よ!」

窓を開けながら話しかける、君のよく通る声が響く。

日曜だというのに、いつもと変わらない時間に起きだした君は、
鼻歌交じりに朝食の支度にかかる。

「早く起きてねー!今週はスペシャルウイークよ!」

キッチンから大声で叫ぶ君の声は、底抜けに明るい。

……ったく、何が爽やかなもんか。
起き上がったとたんに汗が吹き出るのを感じるほど、蒸し暑い朝だというのに。

「おねぼうさん、やっと目が覚めた?」

食卓で新聞を広げる僕に、目玉焼きを持って来た君が話しかける。

「ね? スペシャルウイークの始まりよ!」

いたずらっぽい目で僕の顔を覗き込んで、君は「言葉」を待っている。

結婚した3年前、どうせ最初だけだろうとたかをくくって、面白半分でした約束。
年に2回のスペシャルウイーク。
この習慣を、君が死ぬまで続けるつもりだったことに気付いた時には、
もう、やめられなくなっていた。

「あ・な・た?」

いつのまにか牛乳やトースト、コーヒーサーバーまで運び終えた君が、
もう一度僕の目を覗き込んでいた。

僕は意を決して君の瞳をまっすぐに見詰め、あの言葉を口にした。

「ハッピーバースデイ、わかこ。いつも君を愛してるよ」

この少々気恥ずかしい言葉を口にするのは、年に2週間。
バースデイと結婚記念日のある週だ。

この習慣を、君は「スペシャルウイーク」と呼び、楽しげに友人達に話しながら、
僕はできるだけ人に知られないようにしながら、3年間守り続けてきた。

小さな顔の中で大きな場所をしめる、クリッとした目を輝かせて、
本当に嬉しそうに笑う君。

僕は、誰よりも素敵なこの笑顔が好きだ。

「ありがとう」と満足げに言った後、君は大きな口を開けてトーストにかじりつく。

こんな朝食は、今日から一週間続くことになる。
なんたって、今週は、「スペシャルウイーク」なんだから。

もしかしたら、このスペシャルウイークを本当に楽しみにしているのは、
僕の方なのかもしれない。

君が開けた窓からは、高原のそよ風のように涼しい風が吹き込んで……
なんていうわけはなく、どちらかというと、ドライヤーの温風に近い風が入り込む。

「ねえ、わかこ、そろそろクーラーいれないかい?」

額に汗を光らせながら、目玉焼きを頬張る君に、僕はさりげなく言ってみた。