「えっと……あの、じゃあ、来年のクリスマスは一緒に……」

なんとかそこまでは言葉にしたけれど、その先は嗚咽になった。

涙がこらえられなかったから。

この先一生会えないというわけでもないんだし、
クリスマスを一緒に過ごせないくらい、大したことではない。

そう自分に言い聞かせようとしても、溢れる涙が止まらない。

「ごめん……なさ…ひぃっく」

何年も片思いしていた彼と、実は両想いだったことが分かったのは、
良く晴れた空が嘘みたいに青かった10月の日曜。

世界中のラッキーを一人占めしたんじゃないかと思うくらい幸せだった。

でも、その幸せは、翌日にはすぐ不安に変わって、
夢を見たんじゃないだろうか?とか、
からかわれただけだったのかもしれないとか、
何か勘違いしている可能性もあるし。などと考え始めた。

不安が襲ってくる度にじっと覗き込んだ彼の瞳は明るい茶色で、
一点の曇りもなかったけれど、
不安は解消するどころか、日増しに大きくなっていった。

彼と一緒に出掛けると、綺麗な女の子たちが彼のことを見ている気がして、
こんなに素敵な彼と自分は、釣り合わないように思えて仕方なかった。

新しい服を買っておしゃれをしても、頑張ってメイクしても、
料理を習っても、スポーツクラブに入って少し痩せても、
不安はちっとも消えなかった。

片思いのまま、ときどき目が合うのを喜んでいた方が良かった。

そんなふうにさえ思い始めた12月、
一週間ぶりのデートで彼が口にした言葉に叩きのめされた。

「あのさ、クリスマスは会えそうにないんだ」

<ほらきた!>

心の中の自分が、したり顔で言った。

<ほかの女と会うからに決まってる!>

追い打ちをかけるように続ける。

(そうやってすぐ決めつけるのは良くないんじゃないかなぁ……)

弱々しい声でもう一人の自分もつぶやく。

(たまたまクリスマスに何か用事があるのかもしれないし……)

<付き合って3か月目の恋人に会う時間もないほどの大切な用事って何?>

(そ、それは……)

いじわるそうに言われると、もう一人の自分は黙りこんだ。

「……えっと……あの、じゃあ、来年のクリスマスは一緒に……」

長い長い沈黙の後、ようやく絞りだすことができたのは、
来年の約束だった。

どうして会えないの?だとか、代わりにいつ会えるの?だとか
聞くべき質問はいくらでもあったはずなのに。

彼はちょっと驚いた顔をした後微笑んで、

「わかった、約束するからもう泣かないで。
来年のクリスマスはどんなことがあっても一緒に過ごそう」

と言った。

彼は嘘をつかないひとだ。

これで、すぐに振られても、来年のクリスマスにだけは、
もう一度会えると思った。

少し安心して、また涙が出た。

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