昔、二八そばとか夜鷹そばとか言って、往来を流して売っていた頃のお噺。

男がそば屋を呼び止めてそばを食い、さんざんそば屋にお世辞を言って、
代金を払う時にこう言った。

「いくらだ? 十六文か、それじゃ、銭がこまかいよ。
1つ、2つ、3つ、4つ、5つ、6つ、7つ、8つ…… 今なんどきだ?」

そば屋は反射的にこう答える。

「はい、9つで」

男はすかさず続けて、

「とぉ、11、12、・・・・・・・はい16文」

と、うまく一文ごまかしてしまった。

それを見ていた少し足りない男が自分もやってみようと、
次の日、細かい銭を用意してそばを食った。

勘定になって、先の男と同じように

「いくらだ、十六文か、それじゃ、銭がこまかいよ。
1つ、2つ、3つ、4つ、5つ、6つ、7つ、8つ」

「今なんどきだ?」

「はい、4つで……」

足りない男はそのまま続けて、

「5つ、6つ、7つ、・・・・・・・・・・」

半べそをかいて銭を払う足りない男を見ていた先の男は、
その翌日もう一度、別のそば屋を呼びとめた。

勘定になると、前と同じように小銭を出してこう言った。

「いくらだ? 十六文か、それじゃ、銭がこまかいよ。
1つ、2つ、3つ、4つ、5つ、6つ、7つ、8つ…… 今なんどきだ?」

「へい」と返事をしたそば屋は、心得たとばかりに男の前に腕を出し、
太い手首に輝く自慢のロレックスを見せた。