「お盆といえば、昔は迎え火を焚いて、茄子やきゅうりを飾るのが当たり前じゃった。
迎え火の煙はわしらがあちらに帰る道で、ナスやキュウリは牛馬に見立てた乗り物だったんじゃ」
「へえぇ~、ナスやきゅうりが乗り物かぁ」
ピンク色の髪をした青年がそう言って笑う。
ふざけたナリをしているけれど、話してみるとなかなかの好青年で、
こんなに早くこちらに来てしまったことが可哀そうだった。
「そんじゃ、その迎え火がなくて、ナスやらキュウリやらも飾ってないと、
あちらに帰れないってことなんすか?」
「うむ。まあ、そういうことになるな」
「そうかぁ。じゃ、じいちゃん寂しかったろうなぁ。
ちゃんと迎え火焚いてナスとキュウリ飾ってやればよかったなぁ」
自分の心配をしているのかと思ったら、
青年は、あちらにいたときのことを後悔しているようだった。
「俺、勉強とかぜんぜんできなくて、そういうのも知らなかったんすよねぇ。
おれがちゃんとやっていたら、じいちゃん帰ってこれたのになぁ……」
「それより、お前さんは帰れなくて寂しくないのか?」
「はい、大丈夫っす」
意外に明るい返事に驚いて理由を聞くと、意外なことを教えてくれた。
「俺、スマホ持って来てるんすよ。ここをこうやって、ちょいちょいっと、ハイ、送信!」
「なんかぁ、まだ電波届くみたいで…… あ、今送ったのは彼女っす」
青年は少し照れながら言った。
なんだって!? 一体どういうことだ!
ワシらが迎え火がなくなったことを憂いている間に、世の中そんなにも便利になったのか!
「そうだ!じいちゃんも連絡したい人がいたら、俺が代わりにLINEしますよ」
ワシはしばらく会っていない孫娘のことを話した。
ピコピコ♪
「見覚えのないアイコン…… これ誰だっけ?」
孫娘は少し不思議に思ったが、LINEを教える相手は限定しているので、
友人がアイコンを変えただけだろうと気軽にメッセージを開いた。
「皆元気にしておるか? じいちゃんじゃ。大きくなったお前の顔がみたいわい 源三」
う……そ。誰のいたずら?
最初こそ驚いた孫娘だったが、何度かメッセージが届くうち、あの世からの通信にすっかり慣れた。
変化の激しい現代を生きるJKは適応能力が高いのだ。
顔が見たいというおじいちゃんに、アプリで盛った自撮りを送ったり、
リビングでくつろぐ家族の動画を撮って送ったりもした。
孫娘は、源三があの世で楽しそうにやっているけれど、お盆には帰りたがっていることを知った。
そうは言っても、狭いマンションのベランダで迎え火を焚くことは難しい。
空を見ながら考えて、ふと思いつき、冷蔵庫から出したきゅうりを持ってくると、
爪楊枝で企業名を掘り、「ファーストクラス」と書いたシールを貼った。
仏壇に置いてスマホを取り出すと、LINEを開いて、源三にメッセージを送った。
「じいちゃん、今年のお盆は飛行機を用意したよ!」