シャンシャンシャンシャン……

「この音、良いだろう?」

彼が自慢げに言う。

「すごく、らしいね」

僕は相槌を打ってやった。

最近、この界隈では、コスプレが流行している。

つまり、人間が思い描く姿をそのまま、そっくり真似るということだ。

このシーズンのコスプレといえば、もちろん、サンタクロース。

人間の世界でも、衣装を真似るだけのコスプレをするようだが、
僕たちのコスプレは、当然ながら人間とは違う。

なんといっても、持てる能力が違うのだから。

え? 僕たちは誰かって?

そうだな、あえて言うなら、人間が信じている“神様”ってのに近いかもしれない。

だから、サンタクロースのコスプレをしたら、もちろんプレゼントだって配る。

それも、一生使える宝物だ。

例えばそれは、人間が言うところの「才能」だとか、
「運」とかいう類だといえば伝わるだろうか?

ただし、これはあくまで僕らの遊びの1つだから、
誰にでも平等に、なんてことはしない。

じゃあ誰にプレゼントするのか? だって?

もちろん、気に入った人間さ。

例えば、飛んでいる僕らを見つけてくれた人間とか。

たいていの大人たちは、僕らの姿が見えていても錯覚だと考え、
僕らが見えたと言う子どもの話をちゃんと聞いてやらないんだ。

素晴らしいプレゼントというのは、信じることができる人間に届くものなんだよ。

「そろそろ出かけよう」

赤い服を着て白いひげを蓄えた、
どこからどう見てもサンタクロースにしか見えない彼は、
もうすっかり準備を整えて、きれいな音のするソリに乗っていた。

僕は、人間が言うところのトナカイにしか見えない姿で、
彼の乗るソリをひいて星空に駆け出した。

郊外のある家の窓辺で、小さな男の子とおじいさんが星空を眺めていた。

僕らを見つけた男の子が、指をさして目を見開き、
振り返って「サンタクロース!」と叫ぶと、
おじいさんはにっこり笑って、うんうんと頷いた。

さあて、彼らには、何をプレゼントしようか?

もしもあなたが、信じることのできる人間なら、
クリスマスの前の晩は、夜空を眺めてみるといいよ。


このショートストーリーは、大阪の時計店【ウオッチコレ】メールマガジン『ブリリアントタイム』に掲載されています。