「10月最後の金曜かぁ……今夜も多くなりそうだな」

「ああ、年々エスカレートしているからなぁ」

勤務を控えた男たちは、大きなため息をついた。

仮装した大人たちが夜の繁華街に集うハロウィンは、
今やクリスマスのツリー並みに定着している。

大手レジャー施設が仕掛けた「ハロウィンホラーナイト」の影響で、
ここ数年は怖い仮装がトレンドだ。

手や顔に切り傷や火傷痕をつけた程度の仮装はまだ可愛いもので、
目の玉が飛び出ていたり、斧が頭に刺さっていたり、
皮膚が溶けて骨が見えていたりする者も少なくない。

もちろん、男たちだって、仮装して楽しむことを非難するつもりはない。

ただ、本物らしさの追求は、もういい加減にしてほしい。

年々高くなるメイクと仮装の技術は、もはや本物と見分けがつかないレベルだ。

トゥルル……

受話器を取って耳にあてると、中年女性のうわずった声が響いた。

「もしもし!女の人が刺されて倒れています!胸が血だらけで……」

ほらきた、まただ。

男たちが勤務する県警本部地域部通信指令課(110番受付)には、
ハロウィンが終わるまで、刺された女や切られた男の通報が絶え間なく続く。

お願いだからその仮装姿のまま酔いつぶれるのはやめてくれ!


このショートストーリーは、大阪の時計店【ウオッチコレ】メールマガジン『ブリリアントタイム』に掲載されています。