「あら、あなたカワイイわねぇ、いくつ?」

そのオバサンは、場慣れた様子で話しかけてきた。

「ハイ、この店で一番若い21歳です。
カイトと言います。よろしくお願いします。お姉さま」

オバサンの手を取って、僕の名刺を握らせる。

もちろん、視線は逸らさずに、オバサンの目を見つめたまま。

「お姉さま、僕、これからステージなんです。
左から5番目で踊ります。
お姉さまにウインクで合図しますから、ずっと僕を見ていてください」

「いいわ、左から5番目ね」

薄暗い店内でも、オバサンの表情がとろけていくのがはっきり分かる。

もらった。

このオバサンは、近いうちに必ずまた来るだろう。

この店の“売り”は、本格的なダンスショー。

元ダンサーやミュージカル俳優の在籍が、ショーのレベルを引き上げている。

ショーの衣装に着替えながら、マンションで一人待つ彼女のことを考えていた。

もし僕が普通の男ならば、こんな夜中に彼女を一人ぼっちにしたり、
好きでもないオバサンの手を握ったりしなくてもいいのに……。

早く帰って、彼女の華奢な身体を抱きたい。

ステージにライトで照らし出され、華やかなショーが始まった。

速いテンポのダンスミュージックがしばし彼女を忘れさせる。

さっきのオバサン、どの辺りだったかな?

強い光に包まれたステージから、薄暗い客席の人の顔など、
実は、ほとんど見えていない。

所どころに点るタバコの火が、ルビーのように赤く光っているだけだ。

ルビーを頼りに見当をつけて、思わせぶりな投げキッスをしてみる。

僕がもし普通の男だったら、
こんなふうにキスの安売りもしなくていいのに。

曲がスローテンポに変わると、また、彼女の寝顔を思った。

僕がもし、最初から男に生まれていたら、
愛する彼女を守るために働く場所は、他にもたくさんあったはずなのに……。

 

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