「本当?」
訝しげに聞き返す彼女に僕はもう一度言った。
「本当さ、創った本人が驚いてるんだから。
本当に、この指輪に願い事をすると叶うんだよ」
僕は駆け出しのジュエリーアーティスト。
半年前からこの小さなスペースで、オリジナルジュエリーを売っている。
彼女はひと月ほど前から時々お店を覗きにくるようになった。
僕の作品をいつも熱心に眺めてくれる彼女に、今日、初めて声をかけた。
彼女が手に取っているのは、つい最近仕上がったばかりの新作、ウイッシュエンジェル。
愛らしい天使が小首をかしげた金細工の指輪。
「疑うんなら、それ、君にあげるから試してごらん」
僕は思い切って言ってみた。
「え?私にくれるの!?
……嬉しいけど、ダメよ、こんな高価なものいただくわけにはいかないわ」
「じゃあさ、交換条件。今日の夕飯奢ってよ。
実は、この先にあるイタリアンの店が上手いイカ墨スパゲッティを食わしてくれるらしいんだ。
でも、男一人で入るにはちょっと抵抗がある店なんだよ」
「イカ墨スパゲッティでいいの?」
「そう、イカ墨スパゲッティが食べたいの」
僕はニッコリ微笑んだ。
彼女の気が変わらないうちに、指輪を指にはめてしまうと、あっけに取られている彼女に言った。
「さ、今日はもう店はおしまい。今からすぐに食いに行こう!」
「あ……は、はい」
戸惑いながらも頷く彼女に僕はもう一度自信たっぷりに言った。
「それ、本当に願いが叶う指輪なんだよ」
だって、僕がこのエンジェルにかけた願いは、時々見かける君をデートに誘うことだったんだから。