明日のことが分かればいいのに……
そう思ったことのある人は少なくないだろう。
彼も、以前はよくそう考えたものだった。
けれど、今は……。
ピピピピピピピピピピピピピピピピ……
眠りにつこうとする彼の耳元で、電子音が鳴り響いている。
「うるさいっ!分かったよ、読めばいいんだろう?」
彼は携帯を乱暴に取り上げると、ファンクションキーを押した。
画面には、彼の明日の予定が細かく記されている。
いや、正確には予定などではなく、明日の出来事が記されているのだ。
ある日、突然届くようになった予告メールで、彼の生活は一変した。
もちろん、彼は、最初、このメールを歓迎した。
明日の出来事が前もってわかるのだから、いろいろとメリットもあったし、
場合によっては、金儲けをすることだって出来た。
けれど、彼はすぐにこのメールにうんざりし始めた。
予告に記されていることは、いいことばかりとは限らないのだ。
しかも、完全な決定事項で、絶対に避けることができない。
すぐに彼は、予告を見るのが嫌になった。
携帯を遠くに捨ててみたり、叩き壊してみたりしたが、
夜にはなぜか元通りになって、彼の枕元にあった。
予告を読むのを拒否してもみたが、彼がそれを読み終えるまで、
不愉快な電子音が鳴り響き、一睡もすることができなかった。
根負けして読んだ予告には、寝不足で居眠り運転をし、
軽い接触事故を起こすという事実が記載されていた。
ピピピピピピピピピピピピピピピピ……
今夜も耳障りな電子音が鳴り響いている。
明日のことが分かればいいのに……。
そう思えた過去を、彼は懐かしく思い出す。
何が起こるかわからないからこそ希望に満ちている“明日”という日が、
自分には決してこないことを、とても寂しく感じながら……。