「本当に良い嫁が来てくれた」
そう言いながら、義父は目を細めて私を見る。
今どき珍しいくらいのお嫁さん。
感心な働き者の奥さん。
近所での評判も上々だ。
それも、そのはず。
私はそう噂されるだけのことをもう12年も続けているのだから。
寝たきりの義父を、いやな顔一つ見せないで世話し、
足の悪い祖母に変わって家事全般を行い、
わがままな義妹のクソガキをしょっちゅう預かりながら、
週に3日はパートにも出て、
息子を県下一番の高校に進学させた。
毎日帰りの遅い夫を必ず起きて待ち、温かい食事を出すようにして、
夫の健康管理にも気を配っている。
そう、夫の健康管理は、私がカギを握っているのだ。
だから、12年かけて少しづつ濃い味付けに慣らすことも、
カロリーの高い食事を好ませるようにすることも、
それほど難しいことではなかった。
内臓脂肪をたっぷりとつけた夫は、最近疲れが抜けなくて、
朝がとても辛いと言う。
うふふ。
もう少しだ。
あともう少し我慢すれば、12年間の努力も報われる。
こんな田舎の辺鄙な場所で、一生を終えてたまるものですか。
結婚前はとても優しかった夫の本性が、
実はケチで傲慢なマザコン男だと分かるまでには、3か月もあれば十分だった。
そして、ケチケチと暮らすこの家族が、実は資産持ちだと知るのにも
それほど時間はかからなくって……
「優子さんは本当に良い嫁だ」
お義父さんは私の手を握り、涙ぐまんばかりに感謝する。
義父は、もう長くない。
そして、夫も……。
その日が来たら、私は薬指のこの鬱陶しい拘束をはずし、
十分な資産を手に入れて、新しい人生をスタートする。
それまで、あと、もう少しの我慢……。