「あなた、それで……あの子たちは助かった……の?」
玲子は、薄れていく意識の中で子供たちの笑顔を思い出したていた。
「ああ、子供たちは皆無事だ。玲子、君のおかげだよ、
君が命がけで火の中に飛び込んで助けてくれたんだ」
靖男は、妻、玲子の手を強く握って、もう一度繰り返した。
「君のおかげで皆助かった、愛してるよ、玲子」
「良かった……あな、た……わた、しも、愛し……てるわ」
閉じたままの目から、涙が一筋頬を伝って、玲子の手が重たくなった。
「ご臨終です」
冷静な医師の言葉を聞いて、業者は玲子の頭につけてあった
装置を取り外しながら言った。
「装置はプログラム通り完璧に作動しました」
「ありがとうございました」
靖男は肩を落とし、それでも玲子の最後が安らかであったことに
わずかな幸せを感じてお礼を言った。
臨終時記憶変更プログラム。
玲子の頭に取り付けられていた装置は、
発売されてまだ間もない高価な商品だが、
その素晴らしい効果が富裕層の間で話題になっていた。
脳の研究が進み、人は、臨終間際の一瞬に、
高速で過去を回想することが分かった。
このプログラムは、その時回想する記憶を自由に設定できる
というものだった。
玲子は自分の不注意で火事を起こし、子供たちを焼死させてしまった。
そのことを気に病んでノイローゼとなり、自らも焼身自殺を図ったのだ。
全身を火傷に被われ、助かる見込みのなくなった玲子に
靖男が贈ることのできた最後のプレゼントは、安らかな臨終だけだった。
奇跡的に火傷のなかった玲子の顔は、安堵して微笑んでいるように見えた。