フフフンフン~♪
カレンダーをめくりながら、無意識にバースデイソングを
ハミングしている自分に気づいて、可奈はとても驚いた。
今日は、カレのバースデイ。
いえ、元カレのバースデイ。
散々悩んで、考えて、カレとさよならをした日から3ヶ月。
カレのことをキッパリ忘れて、カレと出会う前の自分を取り戻すために、
思い出の品は全部捨てて、携帯を替えて、新しい習い事をはじめた。
たくさん努力した3ヶ月の間に、仕事も忙しくなって、
少し痩せて、新しい男友達が出来て、もう大丈夫なはずだったのに……。
つい口づさんでしまったバースデイソングで、
自分の心の深いところにまだカレが居ることに気づかされた。
一旦開けてしまった思い出の扉は、すぐには閉じることができなくて、
カレと過ごした時間の記憶が次々と溢れ出した。
カレの少し照れた笑顔。
ゆっくりと話す優しい声。
メールし合ったたくさんの言葉。
肩にまわされた暖かな手。
そして……
初めて抱き合った夜に見た夜景。
そう、あの特別な夜に見た、きらきらと煌く
まるで、ダイヤモンドのようだった夜景。
……あっ。
いつしか涙ぐんでいた可奈は、あの夜のきらめきと
重なった肌のぬくもりを思い出しながら、大切なことに気がついた。
無理に忘れようとする必要なんてなかったんだ!
カレのことは、思い出したいだけ思い出せばよかったんだ!
例え終わった恋であっても、カレと過ごしたたくさんの時間は、
可奈にとってどれも、煌くダイヤモンドのように素晴しい思い出なのだから。
「ハッピバスデートゥーユ~♪」
可奈は涙を指で拭って、バースデイソングの続きを、
今度はしっかりと声に出して歌った。