「箱入り娘」なんて、今では死語かもしれないけれど、
とにかく、私は、そんなふうに育てられました。
真面目で優しい両親は、私が道を踏み外さないよう、
無茶も冒険も決してしない娘でいることを望みました。
そして、迷った時にはいつだって、
“安全な方”を選ぶようにと、繰り返し諭したのです。
だから私のお友達も、皆、正直で穏やかで、
品行方正な優等生ばかり。
そして、私は、進学するときだって、就職するときだって、
堅実で安全なことを確認して、行き先を決めていました。
おかげで、これまでの人生には、大きな挫折も失敗もなく、
毛布のように柔らかな幸せに包まれて、毎日をぬくぬくと過ごしてきました。
両親の言うことが、少し窮屈に感じることもあったけれど、
両親が間違ってると思ったり、反発したいと思うことなんて、
ただの一度もありませんでした。
でも……
今、私の隣にいる人は、
堅実でも安全でもない人です。
挑戦と冒険を好み、一歩間違えば道を踏み外して、
どん底まで落ちてしまいそうな、ちょっと危なっかしい人です。
金色の髪をして、爬虫類の皮の靴を履き、
第二ボタンまではずしたシャツの胸元には、
攻撃的なカタチのネックレスが揺れています。
「あー、剣よりドクロのが良かったかな?」
胸元のネックレスに手をやりながら、彼が私に問いかけます。
彼は、「常識」という名の箱の外には、
スリリングで魅力的な世界があることを教えてくれました。
もしかしたら、私は、これから会いに行く両親に、
生まれてはじめて反抗することになるかもしれません。