彼女はひとりで湯船につかって、先日の同窓会を思い出していた。

20年前は皆同じ学校に通っていたというのに、
今はそれぞれ、ずいぶん違った人生を歩いている。

医者の奥様になって、優雅な生活を送っている旧友や
部長の肩書と部下を持って、バリバリ仕事している旧友や、
昔の夢を実現して、夫と一緒にお店を持ったという旧友もいた。

それに比べて自分ときたら、平凡なサラリーマンの妻で、
毎日変わり映えのない生活を送っている。

考えてみれば、1年前の今日も、3年前の今日も、5年前の今日も、
今日と同じような1日を過ごし、こうして湯船につかっていたように思う。

「はぁ」

バスルームの湯気を見つめながら、彼女は小さくため息をついた。

もしも過去に戻ることができたら、
こんなふうにため息なんてつくこともなかったかもしれない。

そのとき……

「あっ」

ふっと目の前が白くなった。

「う……ん……」

はっと我に返った彼女は、なぜだか小さな違和感を感じた。

どれくらい経ったのだろう?

ずっと湯船にいたはずだけれど、のぼせたような感じはないから、
たいした時間ではなかったに違いない。

だが、さっきまでとは何かが違う……

何がどう違うのかはわからないのだけれど、なんとなく違うのだ。

少し考えてみたが、わからない。

バスルームを見回しても、これといった違いはない。

「疲れてるのかな?早くあがって寝なくちゃ」

彼女は湯船から出ると、違和感を感じたことなど忘れたように
いつものシャンプーを手に取った。

「彼女、まだ気づいていませんね?」

髪を洗う女性の様子をモニターで見ながら、背の高い女神が言う。

「そうね、せっかくのチャンスなのに、主婦って鈍感なのかしら?」

少し呆れた表情で、背の低い女神が言う。

彼女はバスルームから出てパジャマを着ると、
髪を乾かして自分のベッドに入ってしまった。

湯船で感じた違和感の意味を、深く考えることも、確かめることもしないまま。

じっくり鏡を見てみれば、目じりの皺がないことに気づき、
キッチンにはまだ新しい冷蔵庫があって、
タンスの中の洋服が違っていることもわかったはずだったのに……。

「せっかくご希望の過去に戻してあげたのにね」

「8年も前に戻っても気づかないなんて、
いったいどれだけ変わりばえのない生活続けてるのかしら?」

「このチャンスは別の人にあげましょう」

そう会話するのは、時をつかさどる女神たち。

過去に戻ってやり直したいと口にする人間をランダムに選んで、
時折、そのチャンスを与えている。

ところが、ほとんどの人間は、そのチャンスを掴むことができない。

それは、いざ、そのチャンスに恵まれると、
多くがあり得ないと否定したり、やっぱりいらないと辞退したり、
彼女のようにチャンスに気づこうとさえしなかったりするから……。