俺は大学を出るとすぐに、希望する仕事につき、
瞬く間に業績を上げて、同期の中で一番早く昇進した。
仕事は俺の生き甲斐で、休日を待ちわびる奴らの気が知れなかった。
休日なんて、全て無くなってもいいと思ったし、
大型連休などと言って何日も遊んでいる奴らを見ると、
そういう奴らが日本を駄目にしているのだと、本気で考えた。
だから、休日が楽しみだったことなど未だかつて無い。
しかし、今年ばかりは、ちょっと事情が違った。
もうすぐやってくる休日を、どきどきしながら待ちわびている。
俺の机のカレンダーに目を留めた同期入社の部下が、驚いたような顔で言った。
「へえ、高橋さんでも休みを気にすることがあるんですねぇ」
カレンダーには、びっしり書き込まれた仕事の予定に混じって、
赤ペンで「GW」の文字が書いてあった。
俺は体が熱くなるのを感じながらも表情を変えずに言った。
「ああ、たまにはゆっくりするのもいいかと思ってな。」
これは、嘘だ。
本当は、「GW」と書いた日は、忙しい一日になるに違いない。
なぜなら、俺が書いた「GW」は、ゴールデンウイークの略ではなく、
後藤若子のイニシアルだから。
仕事一筋だった俺が、3か月前に出会って、急速に親しくなり、
次に会う予定の日には、ダイヤの指輪を渡すつもりの女性だ。
実は、連休後に選考が始まる、北京支社長に選ばれるためには、
「妻帯者」であることが条件になっている。
支社長の座につくのは、俺だ。
なんとしてもGWにうんと言わせて、支社長になってやる。