今、初めて体験するはずの、このシーンは、すでに、何度も体験したことがある、よく知っているシーンだった。

デジャブ、なんていうのではなく、もう、脳裏に焼きついているといった方が良いくらい、繰り返し見た情景だ。

そう、私自身の想像の中で。

「人は、自分で思い描いた通りの人生を生きる」

そんな文章を読んだのは何という本だったかも忘れてしまったが、本当にそうかもしれない。

高校時代に付き合っていた彼女は、「私って不幸だわ」が口癖で、
別れた後も、彼女の不幸な噂を何度か耳にした。

大人になってから偶然再会したとき、彼女は、まるで出来の悪いドラマのシナリオのように次々と襲いかかる不幸の話を、
とても疲れた顔で、それでも、どこか自慢するような調子で私に伝えた。

このひとは自分で望んで不幸になっているに違いない。

そう思った時、あの文章が思い出された。

人は、自分で思い描いた通りの人生を生きる。

それから私は、「私の理想とする人生」のワンシーンを何度も何度も思い描いた。

「美しい恋人」が手に入るまでには、かなりの時間がかかったが、
「異例の昇進」を手にしたのは、それからすぐのことで、
コツがつかめてくると、もう、面白いように人生が変わりはじめた。

そして、今、私がこの目で見ている情景は……

フフッ。…… ハハハ…… アハハハハハハ!

思わず込み上げてくる笑いを、止めることができないほど素晴らしい、何度も心に思い描いたシーンそのものだった。

信じるか、信じないかはあなた次第だか、人は、本当に、自分で思い描いた通りの人生を生きることができる。


このショートストーリーは、大阪の時計店【ウオッチコレ】メールマガジン『ブリリアントタイム』に掲載されています。