※このショートストーリーは、3部作の第2作目です
それぞれ独立した作品ですが、3作全てをお読みいただくと、よりお楽しみいただけます。
いずみ先輩、ちゃんと来てくれてるかな?
私は、さっと会場を見渡して、いずみ先輩の姿を探した。
実は、いずみ先輩と親しくなったのは、ほんの数カ月前のこと。
でも、私は、どうしてもいずみ先輩を式に招待したかった。
その理由は…… 社内に伝わるとあるジンクス。
そのジンクスとはいうのは、「いずみ先輩が出席した結婚式の新婦は、必ず1年以内に子供を授かって幸せになる」というもの。
うちの会社は日本では珍しいくらい、産休制度がしっかりしていて子供を産んでも働ける環境が整っているから、
結婚したらすぐにでも子供が欲しいと思っている女性が多い。
たかがジンクス。
男性であればそう笑い飛ばすかもしれない。
けれど、過去3年で、すでに7人の新婦が子供を授かり、いずみ先輩が出席しなかった4人は未だに子供ができないという事実をみれば、そんな男性だって笑いを引っ込めるに違いない。
これは、もう、ジンクスでは済まないくらい強力な現実なのだ。
社内の女性の間では、本人以外知らない人がいないくらい有名な話で、結婚が決まって、早く子供が欲しいと思った女子社員は、いずみ先輩を式に呼べるよう、親しくなろうと必死になる。
根回しのいい子だと、彼氏ができた途端に、いずみ先輩に紹介し、式が決まればいつでも呼べる準備を整えている。
ちなみに、本人は、このジンクスのことを知らない。
なぜかは分からないのだけれど、もし本人に知られてしまったらジンクスの効き目はなくなると信じられているから、誰も本人には伝えようとはしないのだ。
会場を見まわしていたら、ななねーたんと目があった。
「本当におめでとう!」って言ってくれてるのね。
夫になったばかりの彼が、私を見てにっこり笑った。
あれ?なんだか景色が滲んできちゃった。
涙って嬉しいときにもたくさん出てきてしまうのね。
あ!いずみ先輩もこっちを見てる。
それから、自分の結婚指輪を見つめて、膨らみかけたお腹に手をあてて……
なんだかものすごく幸せそうに微笑んでるわ。
ああ、私もきっとすぐにあんなふうに赤ちゃんを授かって、幸せそうに微笑む日がくるのね。
滲んだ景色の向こう側に、ななねーたんやいずみ先輩の笑顔が揺れていた。
祝福の嵐の中で、ジンクスはもう叶いかけてると思った。