カチッ!
時計の針が予定の時刻を指した時、着陸成功の報告がもたらされ、
同時に大きな拍手と歓声が沸き起こった。
モニターには赤い星の鮮明な映像が映っている。
局長が、騒ぎを制するよう辺りをゆっくりと見回した後、厳かに告げた。
「今、我々は、輝かしい未来への新しいスタートを切った」
仲間達はその声を聞いて、先程よりさらに大きな拍手と歓声をあげた。
ヒューヒューヒュー!パチパチパチパチ!ワーワーワーワー!
いつまでも鳴りやまない拍手と歓声に聞き入る僕に、
店員がにこやかに言った。
「お客様、いかがですか?
この目覚まし時計は、昔、NASAの探査・#64;が火星にはじめて着陸した時の
感動と興奮をそのまま再現しております」
かつて、人間がまだ地球だけで暮らしていた頃は、
他の星に探査機が着陸したというだけで、こんなにも大喜びしていたんだな。
僕はそれをとても興味深く感じ、
“歴史ノスタルジーシリーズ5・火星着陸”と名付けられた
その目覚まし時計を買うことにした。
先日単身赴任が決まり、引っ越してきたばかりだから、
まだ火星の冬を経験していないが、かなり寒いと聞いている。
朝起きるのが辛そうだ。
それでも、この騒がしい目覚まし時計があれば、
1人で起きることができるだろう。
僕は金星に残して来た妻と子供達を思いながら、
窓から差し込む青い夕焼けの光に目を細めた。