「週末までにあと2キロ落とすって言ったよね?」

亜矢の話を聞き終えるとボクは低い声で問いただした。

亜矢はうつむいたまま、聞こえないくらい小さな声で、
もごもごと言い訳をした。

「何?先輩の送別会?
へぇ、君は僕との約束よりしゃぶしゃぶ食べ放題を選んだんだね。
がっかりだよ」

亜矢は今にも泣きそうな顔をして、
来週まで待ってほしいと懇願した。

「わかったよ、じゃあ、もう1週間待ってあげるから
今度こそちゃんと僕の言うことを聞いて」

亜矢はパッと顔を輝かせて、「はい」と力強く返事をした。

「信じているよ、亜矢」

ボクは優しい声でそう言った。

亜矢はたぶん、来週も痩せはしないだろう。

でも、別にそれでかまわない。
だって亜矢は、静かな低い声で叱られるのが好きなのだから。

亜矢がモニターから消えると、今度は祐子がモニターに映った。

祐子は自分の画面に映っているガテン系イケメンに向かって
1週間の出来事を話している。

ダイエットとは全く関係ない話もずいぶん含まれているが、
女の子の話なんてそんなものだ。

一通り話し終えると、ボクは勢い良く言った。

「おお、よく頑張ったな!」

祐子が嬉しそうな顔をする。
以前よりも目が大きくなって可愛く見えるのは、
頬の肉が落ちたせいだろう。

「祐子は根性あるからな、
俺は最初から、祐子ならやれる!って信じてたぜ」

祐子は頬を赤らめた。

「だけどよぉ、なんつーか、あれだな、
祐子も約束通り痩せられたわけだし、俺とはもう……

ボクの言葉を遮るように、
祐子が「体重維持サポートコース」のボタンを押した。

「ありがとよ!痩せて可愛くなった祐子と
来週も話せると思うとたまんないぜ!」

ボクはそう言いながら、
維持サポートコースの料金はいくらだっけ?
と料金表を見た。

痩せたがっている女の子をイケメンが励ます
この会員制ダイエットサポートクラブは、
ネット回線を使ってリアルタイムの会話ができるのがウリだ。

女性側のモニターには、会員の好み通りに描かれた
アニメのイケメンキャラが映し出されている。

女の子と会話するだけで結構な報酬が貰えるこのアルバイトは、
声優の卵のボクにとって、ありがたい仕事だ。

ただ……

ボクが本当は女だって知ったら、みんながっかりするかもしれないな。


このショートストーリーは、大阪の時計店【ウオッチコレ】メールマガジン『ブリリアントタイム』に掲載されています。