雨が降っている。

君は雨が嫌いだから、ちょっと浮かない顔をして、
窓の外を眺めている。

もしも僕が魔法使いだったら、今すぐ空に虹をかけて、
君を笑顔にしてあげるのに。

君は時々携帯電話に目をやって、
もう何日もかからない彼からの電話を待っている。

そんなふうにうつむいていたら、
せっかくの綺麗な瞳が、まつ毛で隠れてしまうのに。

君が僕をちらりと見て、
また、大きなため息をついた。

もしも僕が彼だったなら、今すぐその細い肩を抱いて、
君を安心させてあげるのに。

また、雨が降っている。

ほんの束の間晴れた空は、青かったことなど思い出せないほど、
どんよりとした灰色。

君は雨を恨むように、涙の痕が残る顔で、
暗い空を見つめている。

もしも僕が神様だったら、今すぐ時間を巻き戻して、
昨日の夜の出来事をなんて、なかったことにしてあげるのに。

君は携帯電話を操作して、
ずっと大切にしていた番号を消した。

そんなこと本当はしたくなかったから、
大きな君の瞳から、また涙があふれだした。

どれくらい泣いたろう?

君は僕をじっと見て、
こくん、と小さくうなずくと、
どこかへ出かける支度を始めた。

いつの間にか雨は上がって、
空が色を取り戻していた。

もしも、僕が人間だったら、お洒落した君と一緒に、
どこかへ出かけていきたいけれど……

僕は、壁の掛け時計。

でも、いつも、君のことを見守っているよ。


このショートストーリーは、大阪の時計店【ウオッチコレ】メールマガジン『ブリリアントタイム』に掲載されています。