「本当に気づかないんだってば!」
「そんなこたぁないだろう?
いくらなんでもお前が隣にいたら絶対に気づくって。」
「この間なんて、若い男とエレベーターでバッタリはち合わせしちゃってさ、
俺、ちょっとしたいたずら心で、『こんばんは』って挨拶したのさ。
そしたら、その男、どうしたと思う?」
「どうしたんだよ?」
「携帯ピコピコやりながら、『あ、どーも』とか言うんだぜ。
ちっとも驚きやしないで。」
「ええっ!!」
「うそ~!!」
「お前らが驚いてどうすんだよ!(笑)」
「だよな……」
「そうね……」
「でもさ、つくづく時代も変わったもんだよなぁ。」
「うん……変わったな。」
「ええ、変わったわね……」
「少し前までは俺らの顔を見るとみんな驚いて逃げたのになぁ……」
「うん、逃げたよな、一目散に」
「ところが今じゃこれよ……」
そう言って猫娘が取り出したのは、コスプレパブのアルバイト募集チラシ。
「『君かわいいね、ここで働かない?』って渡されちゃった」
「おっ!可愛い子がいっぱいいるねぇ」
チラシの写真に反応したのは、挨拶しても驚かれなかったというのっぺらぼう。
「おかしな時代だよなぁ」
傘お化けがそう言うと、猫娘が長い爪にマニキュアを塗りながら、
「でも、誰にも気にかけられず好きなように生きられる
いい時代なのかもしれないわよ。」
と言った。
長い長い時間を生きているお化けたちにとって、
現代は何とも不思議な時代のようだ。