やる気なし
使命感なし
執着なし
なぜこんな人間が天下を獲れてしまったのか?

『極楽征夷大将軍』帯コピーより

学生時代、日本史の授業中はたいてい目を開いたまま寝ていた私。 大きな声では言えないけれど、「征夷大将軍」についても単語としては知っていると言う程度の知識しかありません。 

それに、戦国時代とかいう野蛮な時代は、ただでさえ苦手な日本史の中でも一番興味の薄い時代です。

にもかかわらず、手に取ってしまたのは、帯のキャッチコビーに目が留まったから。

編集者の思惑にまんまとハマってしまいました。(笑)

面白くなければ、途中でやめればいいやと軽い気持ちでページをめくったのですが、いざ読み始めてみるとこれが思いの外面白く、すぐのめり込んでしまいました。

この小説、掴みからして上手いんですよね。

幼い足利兄弟が海で遊ぶ冒頭シーンでは、長じた尊氏を想像させる、何でもなさそうでいて、ちょっと意味深な気もするエピソードが語られます。

そんなエピソードと共に兄弟の境遇を知ることで、すぐさま2人に感情移入でき、読み進むうちに時代背景も見えてきて、歴史を知らない私でもだんだん興味が沸いてくるという寸法。

思わず笑ってしまうシーンも多く、合戦ばっかりしている話だというのに飽きずに読むことができました。

歴史小説あるあるで、小難しい名や似たような名の登場人物が多い上、成長したり出世したりして呼び名が変わるので、相関関係を覚えるのは少し厄介ですが、別に支障はありません。

どうせ敵味方はコロコロと入れ替わりますし……というか、この時代の武将達って信じられないくらい簡単に寝返っていたのですね。負け始めたらすぐ相手方に寝返るなんて、もう、誰と何のために戦っているのかなんてどうでも良かったのでしょうか?

それから、義理やメンツや恩義のために命を捨てる武士たちに涙しつつも、ナンセンス!と切り捨てられない自分の心情に、日本人っぽさを感じました。会社のために体を壊す会社員とか、政治家の身代わりで逮捕される秘書とかいますよね、現代でも。

この本で描かれていた戦国時代は、やっぱり好きになれませんが、足利尊氏のことは、好きになってしまいました。

万事に適当でこだわりがなく、無邪気で感情的で弟思い、平素はぼんやりしているけれど、いざ戦となれば素晴らしい統率力で勝ちをさらい、家臣を大切にして万民に慕われる。実は自分は馬鹿だと知っていて、40を過ぎてからこっそり勉強を始め、立ち居振る舞いから顔つきまで変わったという尊氏。

もし、尊氏が現代のアイドルだったら、推したくなっていたに違いありません。(笑)

何となく意味深だった冒頭のエピソードを回収する最後の締め方も読後の満足感を高めてくれて
GOODでした。

映画化されたらいいのになと思い、尊氏役は誰がいいか?と真剣に考えています。