「……ではどうしてそう思われたのですか?理由を詳しくお聞かせください」
質問は思いがけないもので、ケイゴはどう答えればいいのかを必死で考えた。
焦れば焦るほど、頭は真っ白になり、
何も答えることが出来ないまま時間だけが過ぎて行った。
「それは……その……」
口ごもるケイゴに質問者は左手を上げて
「もう結構です。お疲れ様でした」
と抑揚の無い声で言った。
部屋のドアを閉めると、ケイゴは左手の時計を確認した。
面接時間は、わずか5分だった。
もしこれが本当の試験だったら、ケイゴは確実に不合格だろう。
けれど、これは面接シュミレーション。
ケイゴは、今の面接官の思いがけない質問を、しっかりと記憶に焼き付けた。
ますます厳しくなる就職事情に対応し、
この会社では面接シュミレーションシステムを採用していた。
シュミレーションで訓練をするのは、もちろん、面接を担当する会社幹部達。
昔と違って話術に長けた今の学生の中から、
口先だけでなく本当の愛社精神を持った有能な学生を見つけ出すのは至難の業なのだ。
業界中堅どころのこの会社では、
厳選したはずの採用者に多額の経費をかけて教育したあげく、
あっさり転職されるという辛酸を何度も舐めていた。
廊下の突き当たりまで来たケイゴを秘書が呼び止めた。
秘書はケイゴの左胸についたプログラムパネルを操作しながら、
「今度は理系の優秀な学生という設定でいきましょう」
と呟いた。
それから、銀色に光るシュミレーションロボットK-5(通称ケイゴ)の
左手に組み込まれたストップウオッチのボタンを押して、
「さあ、もう一度幹部たちの面接のお相手をしていらっしゃい」
と送り出した。