「はぁ~。やっぱり、ミナコさんって素敵ね」

目の前に広がるバーチャルブックを操作しながら若い女がため息をつく。

「そうね、とても私たちと同じ人間だとは思えないわ。
でも、あなただって平成時代ならちょっとした美人だったんじゃない?」

少し年長の女が賛同した後、若い女を軽くからかう。

「平成時代って……もう200年以上昔じゃないっ!」

若い女は苦笑いしながら年長の女の肩を叩いた。

「そういえば、平成時代って私たちみたいな庶民でもみんな“食事”をしていたのよね?」

若い女が聞く。

「そうね、普通の人でも本物の野菜や肉を食べていたみたいね」

年長の女が答える。

「それに、ちょっと信じられないけど、
平成時代の人たちは太るのがイヤで食べるのを我慢してたって……
太るのがイヤだなんて、信じられない!!」

年長の女は、若い女を諭すように言った。

「時代が変わると、価値観も変わるのよ」

西暦2250年。

大規模な気候変動と大きな震災、戦争を経た世の中では食肉も野菜も大変希少で、
食べることができるのは、ごく限られた成功者や大金持ちだけだった。

普通の人間は、合成された疑似食品やサプリメントを摂っており、
皆、均一なとても細い体をしていた。

医療は極限まで発達したが、100年ほど前に延命医療の禁止が法律で決められてからは、
平均寿命もみるみる下がって、今や50歳を切っていた。

「それにしても、ミナコさんって本当に素敵よね」

オートビューにしたバーチャルブックの中で動く立体画像に見入りながら、また、若い女が言った。

若い女が見つめる先では、たっぷりと太った腹を揺らしながらドタドタと歩く中年女、
ミナコがにっこりと微笑んでいる。

本当に、価値観というのは時代によって大きく変わるものだ。

だが、“希少なもの”に価値があることだけは、いつの時代も変わらない。


このショートストーリーは、大阪の時計店【ウオッチコレ】メールマガジン『ブリリアントタイム』に掲載されています。