“謎多き男、グレイヴに群がる美女たち”

「またあなたのことが載ってるわよ」

大げさなタイトルが躍る女性誌を見せながら、亜理紗が悪戯っぽく笑う。

「好きに書かせておけばいい」

「そんなふうだから色々書かれるのよ、私は本当のあなたを知ってるからいいけれど、少しは……」

記事に、グレイヴのファンには最近人気の某アイドルもいるというくだりを読んで、表情が曇り始めた亜理紗の口をふさいで、ブラウスのボタンをはずした。

面倒くさい女はこうして黙らせるのが一番だ。

それにしても、面白い世の中になったものだと思う。

ほんの数年前まで、引きこもりのオタクだった俺が、今や、モデルでも女優でも好きなだけ部屋に呼べる男になったのだから。

幸運の始まりは、遊び半分でWebに上げた自作の曲。

楽器なんて弾いたこともなかったが、パソコンが1台あれば、どんな音でもつくりだすことができる。

この曲がなぜかネットユーザーの間で話題になり、ヤフーニュースに取り上げられると、TiktokやXで瞬く間に拡散して、俺は、新進気鋭のアーティストとして祭り上げられた。

2曲目、3曲目も続けて当たり、ネットでは“神”と呼ばれるようになった。

4曲目が大企業のCM曲としてテレビでも繰り返し流れると、取材やテレビ出演の依頼も増えた。

スポンサーの絡みで断り切れなくなった取材を、顔がほとんど隠れる長髪と手足まですっかり覆い隠す衣装で受けた。

取材といっても、元々は引きこもりだ。

これと言って話すこともないので、何を聞かれても曖昧に首を動かして薄ら笑いを浮かべていた。

ところが、取材相手は流石にプロだ。

記事はここまで上手く書くかと驚くほどに仕上がっていた。

その上、この時の写真がおしゃれな見出しで人気女性誌に載り、俺は〝謎多き男”として若い女性たちからも注目されるようになった。

そして今は……

亜理紗が、トロンとした表情で俺を見詰めている。

長い前髪の間からその目を見詰め返しながら、ゆっくりと左腕を上げ、指先まで隠していた服の袖をまくった。

そこには、亜理紗の細い手首に巻かれているのと揃いの、高級時計が着けられている。

亜理紗には、俺が指まですっぽり隠す服を選ぶのは、この特別な時計を人に見られないようにするためだと教えてあるのだ。

「いつも着けているよ」

亜理紗の耳元でそっと囁いた。

ふたりだけの秘密で愛の証である時計を確認すると、亜理紗は嬉しそうに目を輝かせ、俺の胸に顔をうずめた。

俺は、亜理紗を引き寄せた右腕にぐっと力を込める。

もちろん、その右腕に、あのアイドルと揃いの高級時計が巻かれていることなど、亜理紗は全く知らない。