このショートストーリーは、「博士の失敗」の続編です。
単独でもお楽しみいただけますが、合わせてお読みいただくとよりお楽しみいただけます。

他界した博士の研究室を片付けたのは、小さな遺品整理業者だった。

玲子は、その遺品整理業者でパートを始めたばかりの主婦だ。

遺品整理の仕事は決して楽ではないが、お給料は悪くなかった。

それに、玲子のような50代後半で何の特技も持たない主婦にとっては、
雇ってもらえるだけでありがたかった。

博士の研究室だったという現場での作業を終えて車に乗り込むと、
社長が缶に入ったキャンディを差し出した。

お礼を言って1つとり、口に入れると、さわやかな香りと甘酸っぱい味が口内に広がった。

「さっきの現場でいただいたんだ」と言いながら、社長も1つ取って口に含む。

すると……

社長の顔が一瞬にして老けたような気がして、玲子はとても驚いた。

慌てて鏡を覗き込むと、そこには10歳くらい若返って見える自分が映っていた。

いったいこれはどういうこと?!

息が止まるほど驚いた日から1年。

玲子はアンチエイジングサプリメントの販売で起業していた。

起業から3年後、何度か改良されたアンチエイジングサプリは、
誰もが毎日口にする常備薬になっていた。

それからさらに5年が過ぎて、
街では、かつての老人の姿をした人を、ほとんど見かけなくなった。

世の中は一旦何かのスイッチが入ると、加速度的に変化していく。

自分の研究成果が引き起こしたこの大変化を
博士は遠い空の上から、どんな気持ちで眺めているのだろう?