信じられないかもしれないが、その昔、人間は、ある程度自由に時間を操ることが出来た。
強く深く念じれば、いくらかの時間を巻き戻すことができたのだ。
「なんてことだ!」
飛び起きたダダはすでに高くなっている太陽を見て心から後悔した。
今日はガガと狩りに出かける約束をしていたのに、すっかり寝過ごしてしまったのだ。
「神様、どうか私を朝の光の中に戻してください!」
ダダは両手を天に高く突き上げ、強く深く神に祈った。
すると、オレンジ色の朝日がダダの体を照らし、辺りには清々しい朝の空気が満ちた。
「神様、ありがとうございます!」
ダダは神に大きな感謝を捧げ、急いで狩りに出かけて行った。
神様は頷きながら、駆けていくダダの後ろ姿を見送った。
ところが、翌日も、ダダは太陽が高くなるまでイビキをかいて眠っていた。
「また神様にお願いすればいいのさ……ムニャムニャ。」
心配してやって来たガガに、ダダは目を開けないままで答えた。
これまでは、神様の助けをこんなふうに当てにする人間などひとりも居なかったのに……。
神様は、ダダの寝顔を悲しそうに眺めた。
そして時は流れ……
神様の存在など信じない人間が多くなった時代。
ある大国の長が、電子音の鳴り響く部屋で、赤いボタンに手を置いたまま真っ青な顔で立ちすくんでいた。
大きな大きな力をもった爆弾の発射スイッチを、とうとう押してしまったのだ。
けれど、大国の長は珍しく神様を信じている人間だった。
大国の長は天に向かって両手を突き上げ、強く深く神様に祈った。
「神様、どうか、我々を、ボタンを押す前の時間に戻してください!」
大国の長の、心から絞り出すような声を聞きながら、神様はとても迷った。
自分を信じて助けを求めているこの男の願いを聞いてやりたい。
だが、まてよ……
願いを聞いてやれば、この男もまた、ダダのように明日からも自分を当てにするのではないだろうか?
神さまがいつまでも迷い悩んで考えていると、地上から大きな爆発音が聞こえてきた。
あーあ。