「こんな能力、役に立たないよ!」
子供の頃、何度、そう言って拗ねただろう。
僕は、地球を担当する神の家に生まれた末っ子。
兄たちは、空気と水と大地を司る能力や、生き物を生み出す能力を持っている。
兄たちの能力のおかげで、僕らが担当する“地球”には、海や山があって、
森が茂り、生き物が住んでいる。
最初は単純だった生き物もだんだん進化し、分化して、
今では僕たちにそっくりな姿をした、「人間」が暮らしている。
人間はどんどん賢くなって、そのうち海を埋め立てて山を削り、
森を切り開いて「都市」というものをつくるようになった。
地球のあちこちで発展した都市の中では、人間たちがせわしなく動き、
他の生き物を支配して君臨している。
ところが、人間は他の生き物の上に君臨するだけでは満足せず、
他の都市の人間も従えようとするものだから、
ひっきりなしに争いが起こり、それが繰り返されるようになった。
兄たちは争いをやめさせようと、新しい大陸を作ったり、
新しい生きものを誕生させたりしたけれど、
人間はそれを分け合うのではなく、取り合ってまた争った。
そして、ついに……
人間は、自分たちが築きあげてきた都市まで壊し始めた。
海と山と森を壊してまでつくった都市だというのに、
その都市の空と水に毒をばらまきはじめたのだ。
悪い病気が蔓延して、人間ではない生き物がたくさん死んだ。
兄たちは驚いたけれど、人間はまるで、自分たちには関係ないという様子で、
毒をばらまき続けている。
人間は、僕が思っていたよりずっと、愚かな生き物なのかもしれない。
兄たちは、もう、人間を助けるのはやめよう。
殺しあっていても、毒をまいていても、好きにさせておこう。
そう、話し合ったようだ。
このままいけば、あとほんの少しで、地球から人間はいなくなる。
そしたら、また、兄たちが協力し合って新しい地球を一からつくり直すことになるだろう。
でも、僕は、もう少しだけ、人間にチャンスをあげてもいいんじゃないかと考えた。
そして、思い出した。
僕が持っている、あの“能力”のことを。
僕が持っているのは、時間を少しだけ巻き戻す能力。
僕は今、どこまで時間を巻き戻すか決めるため、
人間はいつからこれほど愚かになってしまったのかを調べているのだが……
もしかしたら、兄たちの意見に賛成するべきかもしれない
と考え直しはじめている。