「ねえ、たっくん、たっくんはサンタクロースに何をお願いしたの?」
ほらきた!まただ。
ママは先週から何度も僕に欲しい物を聞いてくる。
僕はもう2年生なのに、まだサンタを信じているとママは本気で思ってるんだろうか?
サンタの正体がパパだってことくらい、今どき幼稚園児だって知っているのに。
しかも、僕にはパパがいない。
今年の夏、パパとママは離婚したから。
プレゼントの質問はいつも適当にはぐらかしてたんだけど、何度も聞きな
おされるのも面倒だから、「PS……」とゲーム機名を答えようとしてやめた。
そうだ、ママを少し困らせてやろう。
「自転車!僕、自転車が欲しいんだ。今のよりもっと大きいやつ」
「自転車?そ、そう……」
ママは少し驚いた顔をした後、何か考え込むように頷いて言った。
僕のうちではこれまで、サンタのプレゼントは、朝起きると必ずベッドの所に置いてあった。
わっかのついた最初の自転車を貰ったときだってそうだ。
僕の家はエレベーターのついていないマンションの3階だけど、背の高い
パパなら自転車を運ぶくらいなんでもなかったんだと思う。
もし、ママが僕に謝ってサンタの正体を教えてくれたら、
自転車は取り消して小さなゲーム機を買ってもらうつもりだった。
だけど……。
その夜僕は目をつぶってもなかなか眠くならなかった。
パパとママの喧嘩する声をどきどきしながら聞いていたあの夜のように。
カタン!ズッ……カタ……カチャン。ドンッ!
部屋の外でひきずったりぶつけたりする音がしたと思うと、
ドアが開いて、何かがベッドに近づいてきた。
僕は暗闇の中でこっそり薄目を開けてみた。
そこには、リボンのついた自転車を持ったママがいた。
小さなママがあの大きな自転車をここまで運んできたんだろうか?
ハアハアと大きく息を吐きながら、できるだけ音をたてないようにと必死で頑張っている。
サンタらしい服を着て、顔には大きな髭までつけて。
僕はなんだか鼻の奥がツンとなって、目をぎゅっとつむった。
今僕が見たのは、きっと本物のサンタクロースだと思いながら。