「ええ、音を聞くとはっきり色が見えるんですよ。赤とか、黄色とか……。
我々のような感覚を持つ仲間は、10万人に1人とも、200人に1人とも
言われていますが、本人が言わない限り他者にはわからないので、その実態はまだ掴めていません。
リチャード・E・シトーウィック博士の定義によれば、
“1つの感覚の刺激によって別の知覚が不随意的に引き起こされる”ことを『共感覚』と言い、
私のように音で『色』を感じるタイプの他、
文字で音を感じたり、匂いに触覚を感じたりする方もいらっしゃいます。」

自分の感覚についてぜひ聞いてほしいからこの集いに参加したい
と懇願してきた男は、私の説明を頷きながら熱心に聞いていた。

「それで、あなたにはどんな共感覚があるのですか?」

私がそう問いかけると、男は待ってましたとばかりに口を開いた。

「実は、私、視覚で時を感じるんです。
人の顔を見ただけで、あと50年だとか、30年だとか……」

「といいますと?」

「はい、その人の寿命を感じてしまうんです。これもやっぱり共感覚でしょうか?」

やれやれ。

「共感覚者の集い」のことがマスコミで取り上げられてから、
こういう輩が後を絶たない。

次は、「あなたの寿命は残り少ない」などと言いだすのだろう。

「それで……」

男が少し言い難くそうに、しかし決意したような顔つきで続けた。

「今、あなたの寿命も感じていて……
信じがたいことなのですが、もうほとんど残っていな……」

「ううっ!」

男の言葉をさえぎるように私の口から呻き声が漏れた。

薄れていく意識の中で見た自分の断末魔の声は、
これまでに見たこともないほど美しい色彩で、
この色がもう二度と見られないのかと思うと残念でならなかった。

そして、目の前でおろおろとする男の言葉が本当だったことを知り、
我々には、まだ未知の仲間が数多くいることを悟った。


このショートストーリーは、大阪の時計店【ウオッチコレ】メールマガジン『ブリリアントタイム』に掲載されています。