※このショートストーリーは、3部作の第2作目です

それぞれ独立した作品ですが、3作全てをお読みいただくと、よりお楽しみいただけます。

第1作 魔性の女

「月子ちゃん、おめでとう! 本当におめでとう!」

同僚の男性から、「近々結婚する」と聞いたのは3か月前のこと。

相手を聞いて驚いた。

それは、私が小学生の頃、一緒に遊んだお向かいの女の子だったのだ。

その女の子、月子ちゃんは、まだ幼稚園に入ったばっかりで、舌足らずなしゃべり方がとても可愛かった。

本人は、「かなねえちゃん」と言っていたつもりだと思うのだけれど、上手く言えなくて、いつも「ななねーたん」と呼ばれていた。

一人っ子同士だった私たちは、、月子ちゃんが引っ越してきてから、毎日毎日一緒に遊んだ。

月子ちゃんは、まるで、私がこの世の中で一番正しいとでも思っているように、何でも言うことを聞き、私のする事を真似た。

可愛くて可愛くて仕方なかったのに、ある日、月子ちゃんのお母さんからまた、遠くへ引っ越すことになったと聞いた。

私たちは、離れるのが嫌で、二人でどこかに隠れてしまおうとありったけのお菓子を詰めたリュックを背負って家出をした。

草つみをした堤防に沿って、外国についてしまうのではないかしらと思うくらいたくさん歩いて、へとへとになって座りこんでいると、月子ちゃんのお父さんがやってきて、おうちへ帰ろうと言った。

あんなにたくさん歩いたはずだったのに、車に乗るとすぐに家についてしまったことがどうしても信じられなかった。

子供たちの都合なんかで、引越しが無くなるはずもなく、月子ちゃんは翌月引っ越すことになったんだけど、私はどうしても月子ちゃんに自分を忘れないでいてほしくって、ママの時計をこっそり盗んで、月子ちゃんにプレゼントした。

光る石のついたその時計を見る度に、月子ちゃんが「ちれいねえ」と言っていたから。

その時計が、結構高価なものだったと知ったのは、私が大人になってからのこと。

ママもさすがに時効だと笑って許してくれたので、代わりの時計をプレゼントした。

その、月子ちゃんが、同僚の花嫁になるなんて!

同僚に事情を話し、月子ちゃんとの再会を果たすと……

驚いたことに、月子ちゃんの左手首には、あの時計が着けられていた。

「ななねーたん」

あの頃と同じ可愛い声で、月子ちゃんが私を呼んだ。

「覚えててくれたのね!」

「忘れるわけありません!」

毎日一緒に遊んだとはいえ、それは記憶の彼方に見え隠れするだけの、遠い昔の、ほんのわずかな期間のことで、覚えているのは小学生だった自分の方だけだったと思っていたのに……。

すっかり成長して綺麗になった月子ちゃんを見ていたら、なんだかもうたまらなくなって、思わず椅子から立ち上がって、その身体をギュッと抱きしめた。

そうして再会の感激に浸っていると……

「あの、感激はわかるけど……」

と同僚の声がして、顔を上げると、困り顔のウエイトレスさんと目があった。

慌ててコーヒーを注文した後、私たちは顔を見合わせて声をたてて笑った。

今日はそんな月子ちゃんの結婚式。

月子ちゃん、とっても綺麗よ。

そして、同僚に言いたいことはひとつだけ。

月子ちゃんを幸せにしなかったら、私が許さないから!

第3作『幸せを呼ぶ女』につづく。