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ショートストーリー

恰幅のいい男が、作業していた手を止めて、同僚に話しかけた。

「いやぁ、まいったね。
息子が欲しがってるっていうオモチャの名前を妻から聞いて、
早速、買にいったんだけど、どこ行っても売り切れでさ……
仕方ないから、オークションで探したら、どんでもない金額がついてるんだよ。
しかも、金額がどんどん上がっててさ。
なんでもっと早く買って準備しておかなかったんだろう?って大後悔だよ。 」

同僚は同情するように男を見る。

「あー、時間巻き戻んないかなぁ……」

遠い目をする男の手が止まっているのを気にしながら、
同僚も、自分のことを話す。

「え?お前んとこもまだ準備してなかったの?」

ため息をつく同僚。

「そうか……。どこも一緒だな。ハハハ」

準備が遅かったのが自分だけじゃないと知って、
男は少し機嫌が良くなったようだ。

「人間の子ども用のプレゼントなら、こんなにたくさんあるっていうのにな……」

“その日”に間に合わせなければいけないことを思い出した男は、
白いひげをつるんとなでると、赤いジャケットの袖をまくって、
また、大小さまざまなプレゼントの仕分け作業を再開した。

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クリスマス, ショートストーリー, 世にも奇妙な物語

「ああ、しまった!」
神様は、サンタクロースに渡そうとした3つの“願い星”のひとつを、
うっかり取り落としてしまった。

“願い星”というのは、神様が1年に3つだけ作る人間への贈り物で、
毎年クリスマスイブの夜、サンタクロースに託して地上に届けることになっている。

この“願い星”をもらえるのは、その1年間をもっとも美しい心で過ごしたと
神様が認めた3人の人間。

サンタクロースは、子供たちにプレゼントを配るついでに、
この“願い星”を選ばれた人間の頭の上に降らせる。

本人には知らされないが、この“願い星”が頭上に降ってきた時、
その人間が一番強く願っていることが、何でも叶うことになっている。

この“願い星”のおかげで、ハンバーガーをおなか一杯食べた人もいれば、
忘れ物を取りに戻ってもパーティーに遅れずに済んだ人もいるし、
初恋の相手にバッタリ会った人もいる。

人が普段一番強く願っていることというのは、案外身近で小さなことだったりするのだ。

それでも中にはベルリンの壁の崩壊や、拉致監禁からの生還などを叶えた願い星もあった。
もっとも、それだって、“願い星”が降った人間は、壁や海の向こうにいる大切な人に
もう一度会いたいと強く願っていただけなのだけれど。

さっき神様がついうっかり取り落としてしまった“願い星”は、ゆっくり
と煌きながら人間界まで落ちていった。

本来ならば、神様の選んだ美しい心で過ごした人の上に降るはずの“願い星”が、
今年は冬の空を漂って、どんな人の上に降るのかまったくわからなくなってしまった。

クリスマスイブの夜、もしあなたが一粒の宝石のように美しい流れ星を見て、
その後、なぜか突然願いごとが叶ったら、空の高いところに向かって、神様にお礼を言って欲しい。

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ショートストーリー, 世にも奇妙な物語

「ご契約、ありがとうございました。それではこれで失礼いたし……」

ピピ!ピピ!ピピ!

男の声に目覚ましの音が重なった。

目を開けるとすぐに辺りを見回したが、部屋には誰もいなかった。

「やっぱり、夢か……」

そうつぶやきながらも、まだどこか腑に落ちない。

夢にしてはあまりにもリアリティがあったから。

と言っても、その内容は夢だとしか考えられないほど、
非現実的でばかばかしい。

時間銀行の営業マンだという初老の男が突然現れて、
俺に時間の貯蓄を勧めるという夢だ。

男によれば、時間もお金と同じように貯蓄ができるらしい。

ただし、時間を貯蓄できるのは、銀行が定める一定基準を満たした
信頼できる人物だけだという。

どういう基準か知らないが、俺は選ばれた人間らしかった。

悪い気はしないので、男の話を大人しく聞いた。

時間貯蓄では、あらかじめ決めた時間を、
日々の睡眠時間から自動的に引き落とせるが、
起きている時間は、貯蓄することができないらしい。

お金の貯蓄と違うのは、睡眠時間から積み立てられた時間は、
解約した際もまた、睡眠時間としてしか使えないところだ。

例えば、10時間分の積み立てを一気に使うと、
深夜2時に寝て3時に起きても、実際には11時間眠っているので、
ぐっすり眠った感じがするらしい。

なるほど、理屈は分かったが、
そんな貯蓄にメリットはあるだろうか?

俺の反応がイマイチなことに気づいた男が、
声の調子を一段落として付け加えたのは、利子の話だった。

貯蓄した時間に付く利子は、0.03%と微々たるものだが、
元本とは違い、起きている時にも使うことができるという。

例えば、間一髪で命拾いした人の多くは、
利子をその瞬間に充てて、危機を避けた時間貯蓄者だという。

なるほど、それなら役だちそうだと、俺は時間積立を契約した。

おかしな夢を見たものだ、と思ったが、しばらくすると、
夢のことは忘れてしまった。

ところが、1年が過ぎたある日、また、あの男の夢を見た。

「わずかなお時間ですが、利子をお預かりしています。
時間が必要になったとき、自由にお使いになってください」

利子は、おおよそ3秒ほどだった。

それからしばらくした昼下がりのこと、
車で街を走っていると、ボールを追った少年が、
目の前に飛び出してきた。

車と少年の距離が近すぎて、ブレーキが間に合わない。

もうダメだ!

そう諦めかけた瞬間、一瞬周りの景色が止まった。

俺は急いでハンドルを切って、本当にギリギリのところで
少年の体を避けることができた。

それはまるで白昼夢のような、ちょっと不思議な体験だった。

その後も俺は、あわやの瞬間を何度か切り抜けたが、
他にとりたてて言うほどのことはない、
平凡で幸せな、80年あまりの人生を全うした。

天国に召されると、どこかで会ったことがある気がする男が、
「お久しぶりです」と握手を求めた後、
「ご覧ください」とモニターを指さした。

映っていたのは、見たことのない外国の街。

男がリモコンを操作すると、その一画がズームアップされ、
体中に巻いた爆弾に、火をつけようとしている男が映った。

あっと息を飲んだその時、爆弾男の背後から忍び寄った若者が、
爆弾男を羽交い絞めにし、続いて機動隊がなだれ込み、
爆弾男は見えなくなった。

ほっと息をついていると、男がこんなことを言った。

「今、爆弾男を取り押さえた若者は、60年ほど前、
あなたの車の前に飛び出してきたサッカー少年のお孫さんです」

サッカー少年?と少し考えて、
間一髪でひかずにすんだ子供のことを思い出した。

「ああ!あの少年の……と言うことは、あなたは……」

俺は昔何度か見た夢のことを思い出した。

「思い出していただけましたか?
実は、これこそが、時間貯蓄の醍醐味なのです。

あなたがコツコツ貯蓄した利子で救われた少年が、
成長して家族を持ち、その家族がまた家族を持って、
その中のひとりが外国の街で、大勢の人間を救いました。

もしもあなたが時間貯蓄をしていなければ、あの少年は事故に遭い、
家族ができることはなく、今救われた人たちも、
どうなったかわかりません。

あなたの3秒の利子は長い時を経てなお、世界を変えているのです」

そうか、そうだったのかと感慨深い気持ちになっていると、
男がゆっくりと付け加えた。

「ところで…… 実は私、そろそろ引退を考えているのですが、
あなたが代わりに、時間銀行の営業マンをやりませんか?」

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Happyの予感, ショートストーリー

2つに結んだ髪を揺らして、娘が何かを追いかけている。

丸い目をきらきらと輝かせ、夢中で見詰める視線の先には、
ひらひらと舞う小さな羽。

垣根の上に止まったその羽を掴もうと、
黒いスカートの裾を翻して飛び上がっている。

とうとう飛んでいってしまった蝶を名残惜しそうに見送ると、
ようやく思い出したように、僕のところへ戻ってきた。

「パパ、ちょうちょ、行っちゃった」

「ちょうちょもお家へ帰るんだよ、ゆみもそろそろ帰ろうか?」

「ゆみちゃんまだ遊ぶ」

僕の手を振り払いまた走っていく娘は、
最近、妻にとてもよく似てきた。

今は、抱きしめることさえ叶わない天国の妻に。

「ゆみ!パパひとりで帰っちゃうぞ」

慌てて飛んできた娘を抱き上げると、
袖をまくってむき出しになっていた腕がひんやりとした。

蝶々を見かける季節だというのに、夕方の風はまだ冷たい。

それは、僕の心に吹く風にどこか似ているようだと思った。

抱いて歩いているうちに、娘はうとうととし始めたようだ。
僕の腕の中でぬくもりを増していく、この愛しい娘の体を、
妻は、一度も抱くことなく逝ってしまった。

娘の誕生と妻の死を同時に知らされたあの日のことを、
僕は一生忘れられない。

命がけで生んだ娘を、その手に抱けなかった妻の代わりに、
僕はたくさん娘を抱いた。

あまりにいつでも抱いていたので、祖母や近所の人たちは、
抱き癖がつくなんて言ったけれど、そんなこと構わなかった。

娘がどこにも行ってしまわないよう、このままずっと抱いて過ごしたいと
何度思ったことだろう。

それでも歩けるようになった娘は、するりと僕の手から抜け出て、
自分の足で走り回るようになった。

あれから、4年。

毎月通っている丘の上のこの墓地にも、また春がやってきた。
穏やかな日差しの中で、蝶々を追いかける娘が、
妻にも見えているだろうか?

「ゆうこ…」

君と娘と3人で手を繋いで歩きたかったよ。

一瞬、妻の香りがしたような気がして振り返ると、
僕の肩の傍でさっきの蝶々が飛んでいた。

蝶々はひらひらと僕達の周りを一周すると、
寝息をたてる娘の頬にそっと止まった。

まるで、優しいキスのように。

「ママ…」

娘の寝言にハッとしたとき、蝶々はもう舞い上がっていた。

見る間に遠くなっていく蝶々は、僕達より先に角を曲がり……

娘を抱いたまま走り出した僕は、角を曲がりながら叫んでいた。

「ゆうこ!」

どんっ!!

左肩が人にぶつかった。

「すみません」

抱いている娘をかばってよろめいた体を立てなおし、
謝りながら顔を上げると、ぶつかった女性の胸に蝶がとまっていた。

思わず手を伸ばしそうになった時、
それが蝶のブローチであることに気付いた。

あの蝶々は、もう、いなくなっていた。

目を覚ました娘が、女性を見てにっこり笑った。

「こうちゃんのママ!」

「まあ、ゆみちゃん」

つられて微笑む女性の胸で光るブローチに、娘が手を伸ばそうとした。

「きれいなちょうちょ」

「パパ、このちょうちょほしい」

我侭を言い出した娘に、こうちゃんという男の子が言った。

「ゆみちゃん、ダメだよ!これはママのだいじなちょうちょなんだ。
死んじゃったパパがくれたちょうちょなんだよ」

「ゆみちゃん、あげられなくてごめんなさいね。」

そう言った後、女性は僕に向って、
「3年前に主人を失くしておりまして」
と控えめに言い足した。

「ゆみちゃんのお父さんですか?はじめまして、
保育園でご一緒している浩太の母です」

軽く会釈した女性から、ふわりと漂った花の香りは、
妻と同じ香りだった。

いつの間にか一緒に遊び始めている子供達を挟んで、
見詰め合ってしまった視線が外せなかった。

長い間忘れていた感情が胸に湧き上がってきたとき、
ほんの一瞬、ブローチの蝶が羽を動かしたような気がした。

「もう春よ」と僕に合図するように……。

 

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ショートストーリー, 切ない記憶

「あなたに甲斐性がないから、この子におもちゃのひとつも買ってやれないのよ!」

ママが大きな声で喚いている。
僕はおもちゃなんていらないから、ママに笑っていて欲しいと思いながら、その声を聞いていた。

パパとママが何度か怒鳴りあった後、パンッ!という音がして、ママの声がしなくなった。

パパがドアをバタンと閉めて、乱暴な足音で外に出て行く。

それから、ママの泣く声が聞こえてきた。

パパとママの喧嘩が始まったのは、この家に越してきてからだったと思う。

前に住んでいた家には、お庭もあって、僕のベッドがある部屋には、
プラレールやミニカーがたくさんあった。
この家は部屋が3つしかなくて、毎日ママと一緒に寝られるから、
本当のことを言うと僕は少し嬉しかった。

お引越しはなぜだか夜で、僕のプラレールやミニカーもほとんど
ここには持ってこられなかった。

それでもここに来てしばらくの間は、ママはちゃんと笑っていたし、
パパも怒鳴ったりしていなかった。

だけど、恐い顔をしたおじちゃんたちが時々やってくるようになった頃から、
ママはいつもイライラとして、パパは大きな声を出すようになった。

しばらくして、僕たちはまたお引越しをした。

今度のお家は、部屋がひとつだけだった。

お引越しの後、僕は、ママがいつもつけていた綺麗な指輪や首飾りを
していないことに気がついた。

キラキラ光る指輪や首飾りはママに良く似合っていたのに、
ヘンだなと思ってママに聞いてみると、「あれはもういらないのよ」と
なんだか寂しそうに言った。

そのうちママはお化粧をしなくなって、
何日も同じ服やくしゃくしゃの髪のままで過ごすようになった。

僕は綺麗なママが好きだったから、少し悲しかったけど、
疲れた顔のママを見ると、何も言ってはいけないのだと思った。

パパがおうちに帰って来なくなったのはそれからすぐのことだった。

そしてママは……

*********

「……したの?」
「あなた、どうしたの?」

妻が心配そうに覗き込んでいる。

また、あの夢を見てしまった。

事業に失敗して借金に追われるようになった父は、
僕と母を残して命を絶ち、母は正気を失って、僕は親類の家で大きくなった。

まだ幼くて、母が病気になったのは、綺麗な指輪や首飾りが無くなったせいだ
と思い込んでいた僕は、指輪や首飾りを取り戻せば母も元気になるはずだと考えた。

成長して全ての事情がわかった後でも、その時の強いイメージは心から離れず、
僕は指輪や首飾りを自ら創りだす、ジュエリーデザイナーを目指していた。

母にぴったりのジュエリーを創って、その指や首を飾ってやれば、
母が元に戻るかもしれないと、まだどこかで信じていたのだ。

虚ろな目を宙に向けたまま、長い時間を白い部屋で過ごしている母。

その目がちゃんと僕を捉えて、もう一度笑顔を見せてくれる日を望みながら、
寝る間も惜しんで勉強し、言葉にできないほどの苦労を超えて、今の仕事と生活を掴んだ。

食卓で新聞を広げていると、妻がコーヒーを運んで来た。

「あなたの新作、とても評判が良いそうね。
海外からもたくさんオーダーが入ってるって、先日のパーティーで専務に言われたわ」

「ああ、おかげでゆっくり休む暇も、可愛い妻と一緒に出かける時間も無いけどね」

「仕方無いわ。売れっ子デザイナーの奥さんになれただけで喜ばなくっちゃ」

妻はいたずらっぽく笑ながら食卓についた。

コーヒーカップを持つ手にも、白い胸元にも、
妻のためにデザインしたジュエリーが光っている。

胸元を見る僕の視線に気付いた妻が、ネックレスに手をやって微笑んだ。

「最近ね、お母様、私のことがお分かりになるみたいなの。
私が訪ねていくと嬉しそうになさってるって、看護婦さんが仰るのよ」

「ありがとう。君の優しさには感謝しているよ」

全てを知って理解してくれている妻は、
忙しい僕の代わりに何度も母を見舞っていた。

僕のデザインしたジュエリーで母を救うことは出来なかったけれど、
僕のジュエリーを身につけて母を見舞ってくれる妻は、
母にとっても僕にとっても大きな支えになっている。

僕のジュエリーたちが妻の胸元で最も綺麗に輝くのは、
彼女の中に、宝石よりもさらに綺麗な心があるからかもしれない。

 

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ショートストーリー, 未来は……

パラリ。

そう音がしたような気がした。

「人生には、新しいページをめくるような日がある」
と、昔、仲の良かった先輩が言っていた。

それは、田舎の町で子供たちに絵を教えていた先輩が、
地球の反対側にある、電気も水道も通っていない、
初めて聞く名前の国へ、旅立つ前に言った言葉。

先輩が、「落ち着いたら送るから」と言った手紙は、
3年経った今もまだ届かない。

けれど、1日1往復しかしない電車を降りてから、
トラックで2時間走り、そこからさらに何時間か歩いて……
なんて場所に行くのだと聞かされていたから、
それも仕方無いことだと思う。

どうして、そんな道を選ぶのだろう?

と、あの頃は不思議で仕方なかったけれど、
今は、先輩の気持ちが少しわかる気がする。

だって、今、私も、あのパラリという音を、
ハッキリと聞いてしまったから。

そして、私は、他人が聞いたら「なぜ?」と首をかしげるに違いないその申し出に、
「はい」と力強く応え、これからの人生を一緒に歩くことになるその人の手を取った。

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ショートストーリー, 可愛い彼女

「明けましておめでとう!それから、お誕生日おめでとう!」

「……」

「どうしたんだい?」

「今頃、なによ……」

「そうだね、ちょっと遅いよね……」

「ちょっとどころじゃないわよ、何日だと思ってるのよ!?
それに、ちっともおめでたくなんかないわよっ!人の気も知らないで!!」

「ごめんね、もう少し早く来たかったんだけど、
お正月はやっぱり出づらくて……」

「クリスマスのデートだってざるそばとか食べてたし、
これまで季節感なんて全然気にしなかったくせに、
都合のいい時だけそんなこと言って!」

「ね、もう機嫌直してよ?」

「……」

「ねえってばさぁ。……よーし、それなら……」

「……キャハッ。キャ。ハハ、ハハハハハ!アハハハハ!
ずるいわよ、くすぐるなんて!」

「やっぱり笑った方がかわいいよ。ほら、涙を拭いて。
……あれ?その時計……僕が隠しておいたプレゼント、見つけたの?」

「あんなところに隠してあったら誰でもすぐ見つけちゃうわよ!
もう少し他に考えられなかったの?本当にもう……
あなたって、頭いいくせに抜けてるんだから」

「ごめん、でも、見つけてくれて良かったよ」

「ちっとも良くなんかないわよ!
……あなたから渡してほしかったに決まってるじゃない!
どうして……うっ……。」

時計をつけたまま眠る君を、僕はずっと見つめている。

もし、今君に声をかけたら、こんな会話になるんじゃないかって想像しながら。

起きている時は怒ったり笑ったり泣いたり忙しい君だけど、
眠っているときはおとなしくて可愛い。

もっとも僕は、起きている君も眠っている君も、
同じくらい愛してるけど。

誕生日がお正月だと、一緒にされて損した気分だって言ってたから
これからはちゃんと別々にお祝いするつもりだったのに、
こんなことになっちゃってごめんね。

本当はずっと、君のことを見守っていたいよ。

でも、もういかなくちゃ。

だから、せめて、君と一緒に過ごすはずだった
50年分の「おめでとう!」を、今のうちに言っておくよ。

大好きな君が、僕がいなくても幸せでありますように。

おめでとう!おめでとう!おめでとう!おめでとう!おめでと……

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ショートストーリー, 世にも奇妙な物語

「そろそろ飯にするか……」

テレビをつけると、楽器を弾く真似だけをするビジュアル系バンドが、
飛んだり跳ねたりしながら歌っていた。

別に好きというわけではないが、カラオケに行くたび誰かが歌うから、
サビのところを覚えてしまった。

「女々しくて女々しくて!」

つい、一緒に口ずさみながら、カップ麺にお湯を注ぐ。

大晦日だからといって、特別なことは何もない。
年末年始も俺にとっては、テレビが特番ばかりになる連休といったところだ。

ビールとカップ麺でお腹が膨れてうとうとしていると、
突然の効果音で目が覚めた。

画面では、カラフルな衣装を着た女の子たちが
アクロバティックに踊りながら歌っている。

服の色が一緒なら見分けがつかないと思うのは俺だけだろうか。

風呂に入り、実家に電話をして、コンビニに行ってもまだ
歌合戦が続いていたが、男性アイドルグループが最後の曲を歌い終えると、
優勝チームが発表されて、蛍の光が流れ始めた。

今年ももう、終わっちゃうんだな。

だから何というわけでもないが、なんとなく残念にも感じられる。

テレビは華やかな歌合戦のフィナーレから、寺の情景に切り替わって、
スピーカーからは除夜の鐘が鳴り響いた。
あと、十数分で年が明ける。

俺は、去年の今頃も、今日とまったく同じように
独りでテレビを見ていたことを思い出した。

このままひとりで年を取っていくのは寂しいことだが、
そのうち、この寂しさにも慣れるのだろう。

ゴ~~~ン。

ゆっくりと鐘が鳴って、静かに新しい年が明けた。

……と思ったが、テレビ画面ではなぜか、また、
楽器を弾かないビジュアル系バンドが歌っている。

「女々しくて女々しくて!」

つられて歌う俺の手には、さっき空にしたはずのカップ麺があった。

何かがおかしい。

だが俺は、もう一度風呂に入り、実家に電話をして、コンビニに行った。

コンビニで念のため日にちを聞くと、「31日です」と怪訝な顔をされた。

すでに一度過ごした時間をもう一度繰り返している気がするのは、
今年一年俺の毎日があまりにも変わり映えしなかったからかもしれない。

テレビでは男性アイドルグループが歌い終え、勝敗が決まって、
除夜の鐘をつく寺の風景が映しだされた。

やっと、年が明ける。

静かに響く鐘の音を聞きながら、そう感じた瞬間、
楽器を弾かないビジュアル系バンドの楽曲が流れ出した。

「女々しくて女々しくて!」

やばいぞ、明らかに間違っている。

ここで聞こえるべき台詞は、「あけましておめでとう」のはずだ。

俺は頭がおかしくなってしまったのだろうか?

不安な気持ちになりながらも、カップ麺を食べ、
カラフルな衣装が無ければ見分けがつかない女性グループの歌を聞き、
風呂に入って、実家に電話をして、コンビニに行った。

頭では、「そんなことをしている場合じゃない」と考えているのに、
体が自然とそう動いてしまう。

男性アイドルグループが歌い終え、除夜の鐘が鳴って、
今度こそ年が明けたはずなのに、テレビではやっぱり、
あのバンドの曲が流れていた。
「女々しくて女々しくて!」

カップ麺を持つ手がわなわなと震えた。

それから俺は、同じ時間を何度繰り返したかわからない。

このままではまずい、どうにかして状況を変えなければと思うのに、
実際には何をすればいいのかわからなかった。

それに、下手に何かすることで、さらに悪い状況になってしまったら……
そう思うと怖くて何もできなかった。

「女々しくて女々しくて!」

あの曲がまた聞こえてくると、諦めも手伝って
別にこのままずっと大晦日だっていいじゃないか。
そんな考えさえ浮かんできた。

だが、出来上がったカップ麺をすすりながら気を持ち直し、
うとうとしていたところを大きな効果音に起こされた時、
1つのアイデアがひらめいた。

そうか!

どうして、こんな簡単なことに気づかなかったのだろう?

俺は、カラフルな衣装のアイドルが踊っている画面に近づくと、
コンセントから電源プラグを引っこ抜いた。

起きている間中……風呂に入っている間やコンビニに行っている時でも、
つけっぱなしが当たり前だったテレビの音が無くなると、
驚くほどの静寂がおとずれた。

静けさの中で風呂に入り、音のしない部屋から実家に電話をかけると、
母親の話すいつもと同じ言葉がなぜだか心に染みた。

もしも正月を迎えることができたら、土産を買って実家に帰ろうと思った。

コンビニに行くと、店員が、レジを終えた客ひとりひとりに、
笑顔で「良いお年を」と声をかけていることに気がついた。

年末の最後まで安い時給で働かされているというのにだ。

部屋に戻って音のしないテレビを見た瞬間、
反射的にリモコンを探してスイッチを入れたが、
同時に、自分で電源を抜いたことを思い出した。

静かな部屋で一人座っていると、いろいろなことが思い出され、
様々な考えが浮かんでくる。

こんな時間を持ったのはどれくらいぶりだろう?

テレビや音楽の音にかき消されて聞こえなくなっていた大切な音が、
はっきりと聞こえるようになった気がした。

いろいろと考えていると、窓の外からかすかな鐘の音が聞こえてきて、
この辺りにも除夜の鐘をつく寺があったことを知った。

もうすぐ、年が明ける。

……いや、明けないかもしれない。

だが、もし、また時が戻ったとしても、
これまでとは違った気持ちで、大晦日の夜を過ごせるだろう。

テレビを消したこの部屋に聞こえるのがどんな音なのかも
少し楽しみだ。

ゴ~~~ン。

音の無い部屋だからこそ聞こえる窓の外の鐘の音が、
もう一度、ゆっくりと響いた。

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クリスマス, ショートストーリー, リスタート, 怖い話

「ねえ、あなた、私、お仕事に出てもいいかしら?」

終電で帰宅して、レンジで温めた夕食の皿をつついていると、パジャマ姿の妻が話しかけてきた。

「仕事って……」

結婚して5年、俺の仕事は年々忙しくなる代わりに、昇進も順調で、
妻が生活の心配をする必要のない給料をもらっていた。

「お金に困っているわけじゃないだろう?」

「お友達がね、輸入化粧品の代理店を始めたの。
商品は薬草を原料にしたナチュラルなもので、ヨーロッパではたくさんの人が
使ってるんだけれど、日本にはまだほとんど入ってきていないから、
訪問販売の形をとって、説明しながら売るんですって。
それで、ね、私に、そのお手伝いをしてほしいそうなの……」

「なんだ、化粧品のセールスか。お前には無理だよ、簡単には売れやしない」

広げた新聞に視線を戻し、まだ何か言いたそうにしている妻をさえぎった。

妻はそれ以上何も言わずに休んだので、納得して諦めたものと思っていた。
が、しばらくして、妻がその仕事を始めていたことを知った。

少しいやな気分にはなったが、どうせ僕が会社に行っている間だけのことだし、
大目に見てやることにした。

その日読んでいた新聞には、気味の悪い事件が載っていて、
暗くなってからも一人でいることの多い妻のことがほんの少しだけ心配になった。

**********

「またですかぁ?」

若い刑事が間の抜けた声を出して顔をしかめた。

ここのところ、この管轄では、昼間自宅に一人きりの女性が薬を飲まされ眠っている間に指を切り落とされる、
という気持ち悪い事件が続いていた。

使われた薬はまだ断定できていないが、一時的に記憶を失くす作用があるらしく、
どの被害者も、事件前後の記憶がすっぽり抜け落ちていた。

そんなことで、捜査はなかなか進展しないまま、被害者の数だけが増えつづけていた。

「きっと、頭のイカレタ野朗の仕業だ、行くぞ!」

**********

彼は今夜も遅いようだ。
毎日仕事仕事と言って、一緒に夕食をとることが無くなったのはいつからだったろう?
私は一人で食べた夕食の皿をシンクに運んで、水道の水を出しながら、
あの日のことを考えていた。

あの日、たまたま訪ねたのは、高校時代の同級生の家だった。
昔から何でも自慢するタイプの女性だったけれど、
主婦となってその態度には拍車がかかっていた。

仕事などどうでもいいからすぐに帰ろう、と思った矢先、
彼女が最近ご主人に買ってもらったという指輪の自慢をしはじめた。

どこにでもあるような指輪などちっとも羨ましくはなかったが、
彼女のご主人が結婚記念日をちゃんと覚えていて、
プレゼントを贈っていることが羨ましかった。

指輪を誉めたことに調子づいた彼女は、その後、
自分達がどんなに仲が良くて幸せな暮らしをしているかを長々と話しだした。

吐き気がするほどうんざりとしながら、高校時代にも同じようなことがあったことを
思い出していた。
そして、聞いているうちだんだん、殺意にも似た嫉妬と憎しみの念が沸いてきた。

だから、もう一度彼女を訪ねて……

その後のことは、まるで映画でも見ていたように現実感がなく思えるのはなぜだろう?

すぐに見つかって咎められると思っていたのに、誰も私を疑わなかったから、
私は中毒患者のように、「ソレ」を繰り返している。

もしかしたら、はやく夫が気付いて叱ってくれることを望んでいるのかもしれない。

********

今夜も最終電車になってしまった。
今日は何か忘れていることがあるような気がする。
喉元まで出掛かっている事柄が思い出せないのは、気持ちが悪いものだ。
電車を降り、バスがなくなってしまった自宅までの道のりを歩きだした。

もう12月か、そろそろコートが必要だな。
深夜の歩道は冷え切っていて、足元から這い上がってきた冷気が身を震わせた。
自宅が見えてくると、珍しく、部屋に明かりが点いていた。

明かりのある部屋へ帰るのは、やはり嬉しいものだな、
軽い笑みがこみ上げたとき、なかなか思い出せなかった大切なことを思い出した。

今日は、僕らの結婚記念日だった……。

新婚の頃は、こんなに素晴らしい日を忘れる奴がいるなんて信じられないと思っていたものだが、
こうして当の本人がすっかり忘れてしまうのだから困ったものだ。
僕は自嘲気味にもう一度笑った。

すぐ妻に謝って、週末は久しぶりにふたりで食事にでもでかけよう。
そう考えながら、自宅のドアを開けた。

「お帰りなさい、あなた。ね、見て、今日はツリーを飾ったのよ」
リビングから明るい声がして、さっきまで点いていた明かりが消え、
代わりに点滅するツリーの電飾が光るのがわかった。

リビングの真ん中に置かれた大きなツリーには電飾と一緒にその明かりを反射して
キラキラと光る小さな飾りがいくつもついていた。

「綺麗でしょ、あなた」

「ああ、綺麗だね」

「あなたがそう言ってくれて嬉しい!」

妻はにっこりと微笑んで言ったが、その目は僕を通り越してどこか遠くの方を見ているようだった。

慌てて今日のことを謝ろうと口を開きかけたとき、妻がまたリビングの明かりを点けた。

「!!」

リビングに明かりが点くと、電飾に反射して光っていたのが、
色とりどりの指輪だったことがわかった。

どれも、すべて、指にはまったままの……

僕は言葉を失って、ただその場に立ち尽くした。
妻は、視線を宙にただよわせたまま、にっこりと微笑んでいた。

**********

「あんな大きな家で何不自由なく暮らしている奥様の犯行だったんですねぇ」

若い刑事は首をかしげながら、先日の調書を読んでいた。

「切り取った指をツリーに飾ってたなんて、やっぱりイカレちゃってたんだろうけど、
どうしてそんなことしたんでしょうねぇ?」

「おまえ、ウサギは寂しいと死んでしまう、っていう話を知ってるか?
彼女もきっと寂しかったんだろうなあ。
仕事仕事で結婚記念日さえ一緒に食事できない夫と暮らしているのが」

「亭主元気で留守がいい、っていうんじゃないんですかね?」

「まあ、まだ彼女もいないお前なんかにはわからないかもしれないな」

俺は笑いながらそう言ったが、こんな事件がまたいつ起ってもおかしくないような気がしていた。

たった一つ、救いがあったのは、奥さんを自首させた夫が、
その後、奥さんの好物を持って毎日面会に来ていることだろうか。

彼女はやがて病院に移されることになるだろう。

夫は、精神を病んでしまった彼女が、元の心と笑顔を取り戻すまで
ずっと彼女の傍にいるつもりだ、と言っているそうだ。

このショートストーリーは、ウオッチコレメールマガジン「ブリリアントタイム」に掲載されています。

クリスマス, ショートストーリー, ベリーショートストーリー

暖冬と言われて、秋が長かった街も、イルミネーションが灯り、
クリスマスソングが流れ始めると、一気に冬らしくなる。

今年も、また、この季節がやってきた。

人生最大の決断をしてから、もう10年が過ぎようとしているのに、
クリスマスキャロルを聞く度に鮮明に思い出す、あの、決断までの数分間。

何年も待ってくれた彼は、最後の最後で、決断を急かした。

もし、あの時、彼の手をとっていたら、私は今、どんな暮らしをしているだろう?

真夜中に目が覚めて、偶然姿を見てしまってから、
毎年会うのを楽しみにしていて、7回目の逢瀬でプロポーズを受けた。

年に一度しか会えない遠距離恋愛でも、2人の仲は会う度に縮まって、
返事を欲しいと言いながら、彼は3年待ってくれた。

でもあの日、とうとう決断を迫った彼の手を、掴むことはできなかった。

それは、私が19歳のクリスマスイブのこと。

翌年から、彼はもう会いに来てはくれなくなった。

誰にも信じてはもらえないと思うけれど……
〝サンタクロース”は本当にいることを、私は知っている。

このショートストーリーは、ウオッチコレメールマガジン「ブリリアントタイム」に掲載されています。