「分かったわ。もういい!あなたって、いつもそう……」

ちがう。

本当はそんなことが言いたいんじゃない。

なのに、どうして、口を開くと出てくるのは、文句ばかりなんだろう?

並んでテレビを見ているだけでも、あんなに幸せだったのに、
二人で過ごす時間が減って、お互い別々の趣味を持って、
話題はどんどん噛み合わなくなって……

たまに話をすれば喧嘩するようになったのは、いったいいつからだったろう?

一緒にいても心から笑えなくなって、
となりに座ることさえ苦痛を感じるようになってしまった。

あんなに好きで結婚したはずだったのに。

ため息をついてスイッチを入れたテレビで、
美人女優が会見をしていた。

「本当は、ずっと一緒にいたかった。
でも、自分らしくあるために一人に戻ることを選択しました。
結婚したことは後悔していません。彼の幸せを願っています。」

「自分らしくあるために……」

無意識に、女優のセリフを反復していた。

ふと視線を落とした左手の薬指には、鈍く光るリングが、
前より少し太くなった指に食い込んでいた。

外そうとしてみたが簡単には抜けない。

ムキになってひっぱってみても、やっぱり指輪は抜けなくて、

私は涙ぐみながら、指を赤くして指輪と格闘した。

ハッと気づいて洗面所に行き、石鹸をつけて指輪を回すと、

指輪は少しずつ動いて、やがてスルリと抜きとることができた。

指輪の下から現れた、そこだけ日に焼けていない白い肌は、
まるで新しい指輪のように見えた。

思い出にしがみつくのはやめて、一歩踏み出す生き方もあるのかもしれない。

自分らしくあるために。

そう言って真っすぐに前を向いた女優の、
凛とした美しさが思い出された。