ニュートンは、りんごが木から落ちるのを見て引力を発見したというけれど、
由美は、デパートの試着室で地球の重力を実感していた。
上半身と同じサイズのスカートがはけなくなっていたのだ。
先週、仲間うちで一番最後まで独身だった友人が結婚を決め、
一流ホテルからの招待状が届いた。
由美が専業主婦になって7年。
ガーデニングと子育てとママ友達とのお喋りで過ぎていく日々に、
いつしかタンスの服はみな、ウエストがゴムのものに変わっていた。
腰でひっかかっているスカートを見ながら、
由美はもうひとつの問題に気づいた。
家に戻ってドレッサーの引き出しを開け、奥から小さな箱を取り出すと、
大粒のダイヤがついた美しい指輪を取り出した。
……やっぱり。
案の定、指輪は途中でひっかかってしまった。
主婦になると指は太くなる、という話も本当だったようだ。
服もダメ、指輪もダメで泣きたいような気分になった。
惨めな気持ちでため息をつき、ぼんやりと見た鏡には、
化粧っけの無い弛んだ顔の女が映っていた。
それは、手に入れた幸せに安心しきって、
自分が女であることを忘れかけている顔だった。
由美は台所から大きなゴミ袋を出してくると、
タンスの中の服を、全部その中に入れ始めた。
-1ヶ月後。-
「由美、あなた変わらないわね!細いウエストも独身時代のまま!」
「ねえ、その指輪素敵じゃない!ご主人に買ってもらったの?
……結婚して7年も経つのに仲がいいんだから……綺麗な女は得ね」
由美は、試着室でニュートンを思い浮かべたあの日のことと、
その後の一変した生活を思い出していた。
引き締まった体の効果は、タイトスカートが綺麗に着られることだけではなかった。
最近帰宅が早くなった夫が、新調したスーツに似合う新しい指輪を買ってくれたのだ。
軽やかに微笑みながら、由美は生活の改善が指先にまで効果があることを、
むっちりした指に結婚指輪を食い込ませている友人にも教えてあげたいと思った。